入眠時の眼球運動 : SEMsと収斂性眼球運動
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概要
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眼球運動は,睡眠の生理心理学的研究において,脳波と並んで重要な指標である。睡眠時に観察される眼球運動には,両眼球が素早く動く急速眼球運動(rapid eye movements; REMs)と振子様の滑らかな動きを示す緩徐眼球運動(slow eye movements: SEMs)とがある。REMsは睡眠の脳波段階と睡眠周期の判定基準として標準化されており,また夢見体験の評定にも不可欠の指標である。これに対し,SEMsは睡眠の特定の状態を判定する指標として標準化されてはいないが,睡眠初期の段階1から段階2にかけて出現することが旧くから知られている。また,脳波上にα律動を認める閉眼安静時にもその出現があり,低い意識状態や意識の混濁状態との関連性が指摘されている。これらSEMsに関する知見を総合すると,入眠の開始(傾眠)時点の判定基準としてSEMsを用いることが妥当ではないか,と推論される。著者は,就眠前覚醒期から徐波睡眠(段階3と4)に至る睡眠第1周期についてSEMsの変動性と主観的な眠気(sleepiness)との関連性を調べ,入眠期の時間的範囲の推定にSEMsが有効であるという考えを得ている。ところで,睡眠時の眼球運動は,角膜側にプラス電位,網膜側にマイナス電位がそれぞれ分布する角膜-網膜電位(corneoretinal potentials)の原理を応用したEOG (Electro-oculography)により通常記録される。また,水平方向の眼球運動のEOG記録については,耳朶あるいは乳様突起を基準電極部位として左右の眼窩外側縁部よりそれぞれ単極導出する方法がAPSS (Association for the Psychophysiological Study of Sleep)によって標準化されている。この導出方法は,左右2チャンネルのEOG曲線の位相差に着目して,左右の眼球が同一方向に回転する共役性眼球運動(conjugate eye movements)を検出することが主たる目的である。著者は,前報にてこの位相法による記録を試み,REMsとSEMsがそれぞれ2チャンネルのEOG曲線の急速な,あるいは緩やかな逆位相の偏位の記録としてあらわれる共役性運動であること,他方,基準電極に由来するアーチファクトは2チャンネルのEOG曲線および脳波曲線が共に同位相に偏位することから比較的容易に識別されることを確かめた。しかしながら,この位相法による導出記録においてEOG曲線が同位相の偏位を示した場合,それらをすべてアーチファクトとみなすことには問題がある。なぜなら,水平方向の眼球運動には共役性運動の他に,両眼球が反対方向に回転する収斂性眼球運動(convergent eye movements)があり,この眼球運動は角膜-網膜電位の原理により2チャンネルのEOG曲線が同位相の偏位を示すと期待されるからである。APSS刊行の睡眠段階の標準判定法の手引きによると,睡眠中,収斂性眼球運動の出現は共役性眼球運動に比較して少ないと記載されている。しかし,睡眠時の眼球運動に関する従来の研究は共役性運動を対象とするものが圧倒的に多く,睡眠中の収斂性運動の出現様態については十分知られていないと考えられる。本研究は,覚醒および睡眠初期における水平方向の眼球運動を位相法によりEOG記録し,収斂性眼球運動の自発的な出現様態を次の3点にわたって調べた。
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