入眠状態と緩徐眼球運動(SEMs) : SEMsの記録方法と定量的分析について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
覚醒から睡眠への移行状態とされる入眠期がいつ開始して終了するのか,その判定は容易でない。睡眠研究では,ヒトの意識水準は脳波像に基づいて複数の睡眠段階に分類され,その中,段階1が入眠期に対応づけられる。しかし,この段階1は持続性に欠け,容易に他の段階と相互移行する。また,その脳波像は,「2〜7c/s波の目立つ,比較的低電位のさまざまの周波数の混在する脳波」と定義されるように,固有の基礎律動が無いため判読に苦労することが多い。このような理由から,段階1で記述される入眠期は不安定でとらえにくい性質のものとなる。睡眠段階の概念は比較的均質で定常な脳波状態を対象とするものであることを考えれば,入眠期のような過渡的状態をこの段階の概念で記述することには,本来,無理があるのではないだろうか。眼球運動は,脳波と同等にあるいはそれよりも鋭敏に,ヒトの意識水準の変動を反映すると考えられる。睡眠中の眼球運動は急速眼球運動(rapid eye movements: REMs)と緩徐眼球運動(slow eye movements: SEMs)とに分類される。REMsは,REM睡眠という夢見と関連する新しい睡眠状態を意識水準の中に位置づけた重要な指標である。一方,SEMsは,脳波像で定義される入眠期(段階1)の随伴現象として旧くから知られているが,その他,覚醒期にもその出現が認められ,くつろぎ,夢様体験,意識障害などの心理的状態との関連性が論議されている。著者は先の研究にて,段階1出現前の覚醒期から既にSEMsが出現し,このとき眠気の訴えが多いこと,また,SEMsは覚醒から睡眠への時間的推移に対応した一定の消長過程を示すことを報告した。以上の所見から,覚醒と睡眠の間に,SEMsによって特徴づけられる過渡的状態の介在を想定し,それによって入眠期の範囲を記述できるのではないかと考えられる。しかし,著者の先行研究は眼球運動の記録と波形処理が十分でなく,改善の余地があった。第1に,眼球運動を双極導出したため,電極に由来するアーチファクトの検出が不可能であった。このアーチファクトの検出には,単極導出した左右2チャンネルの眼球運動曲線の位相を比較する位相法(phase method)が有効であるとされる。即ち,電極に由来するアーチファクトは両チャンネルの同位相の振れ,あるいは一方のチャンネルのみの振れとして記録される。眼球運動自体の意味のある変化は2チャンネルの逆位相の振れとして現われる。第2に,波形処理については一定区間のSEMsの持続性を3段階に評定する方法を用いたが,波形の振幅や立上り角度などに着目した定量的分析を試みるべきであったろう。従来,SEMs波形について,そのようなパラメータを計測し,その特徴を詳細に調べた研究例はないようである。本研究は,(1)位相法による眼球運動の記録と,(2)SEMs波形の特徴抽出パラメータの計測とを行ない,覚醒から睡眠への段階移行期におけるSEMsの経時的変化の定量的記述を試みた。
著者
関連論文
- 入眠時のslow eye movement(SEM) : 睡眠状態の指標としての可能性
- 昼間睡眠時の緩徐眼球運動と睡眠段階の移行期間
- 入眠時緩徐眼球運動のDC記録とAC記録の比較
- 入眠期の脳波パワ変動と緩徐眼球運動
- 入眠期の脳波と眼球運動のスペクトル解析の試み
- 緩徐眼球運動と意識状態(開学20周年記念号)
- 入眠時の眼球運動 : SEMsと収斂性眼球運動
- 入眠状態と緩徐眼球運動(SEMs) : SEMsの記録方法と定量的分析について
- 定位・防御反射の指標としての頭部血管反応--刺激強度および覚醒・睡眠段階の効果
- 定位・防御反射の指標としての頭部血管反応--刺激強度および覚醒・睡眠段階の効果
- Slow Eye Movements and Transitional Periods of EEG Sleep Stages during Daytime Sleep
- 入眠期研究における行動学的アプローチ
- 久保田競著『手と脳-脳を高める手』
- 人間の生理学と心理学 : 問題の立て方について, ア・エル・ルリヤ, ФИЗИОЛОГИЯ ЧЕЛОВЕКА И ПСИХОЛОГИЧЕСКАЯ НАЧКА, К ПОСТАНОВКЕ ПРОЬЛЕМЫ, А.Р. ЛУРИЯ, ФИЗИОЛОГИЯ ЧЕЛОВЕКА, 1975, TOM1., No.1, CTP.18
- 睡眠発生と慣れの解除 : 末梢血管反応について
- 定位・防御反射の指標としての頭部血管反応 : 刺激強度および覚醒・睡眠段階の効果