冷温帯林における落葉の分解過程と菌類群集(宮地賞受賞者総説)
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概要
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冷温帯産樹木の落葉を材料として、その分解過程と分解に関わる菌類群集の役割を実証的に明らかにした。調査地は京都府の北東部に位置する冷温帯ブナ天然林である。35ヶ月間にわたる落葉分解実験の結果、14樹種の落葉のリグニン濃度と落葉分解の速度および落葉重量の減少の限界値との間に負の相関関係が認められた。また窒素・リンの不動化-無機化の動態がそれぞれリグニン-窒素(L/N)比、リグニン-リン(L/P)比の変化によく対応していた。実験に用いた落葉樹種のいずれにおいても、リグニン分解はホロセルロース分解より遅く、落葉中のリグニン濃度は分解にともなって相対的に増加する傾向が認められた。落葉に生息する微小菌類と大型菌類について調査を行い、29樹種の落葉から49属の微小菌類を、また林床において一生育期間を通して35種の落葉分解性の担子菌類を記録した。ブナとミズキの落葉において分解にともなう菌類遷移を比較調査した。リグニン濃度が低く分解の速いミズキ落葉では、リグニン濃度が高く分解の遅いブナ落葉に比べて、菌類種の回転率が高く、菌類遷移が速やかに進行した。担子菌類の菌糸量はミズキよりもブナで多く、またブナでは分解にともなって担子菌類の菌糸量の増加傾向が認められた。分離菌株を用いた培養系における落葉分解試験では、担子菌類とクロサイワイタケ科の子嚢菌類がリグニン分解活性を示し、落葉重量の大幅な減少を引き起こした。落葉のリグニン濃度が高いほど、菌類による落葉の分解速度が低下する傾向が培養系でも示された。同様に、先行定着者による選択的なセルロース分解によりリグニン濃度が相対的に増加した落葉においても、菌類による落葉の分解力の低下が認められたが、選択的なリグニン分解の活性を有する担子菌類の中には、そのような落葉を効率的に分解できる種が含まれた。これら選択的なリグニン分解菌類は野外においても強力なリグニン分解活性を示し、落葉の漂白を引き起こしていたが、林床におけるその定着密度は低かった。
- 日本生態学会の論文
- 2007-11-30
著者
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