マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による高分子及び生体試料中の微量有機成分の直接分析

概要

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各種の高分子材料及び生体試料中に存在する種々の微量有機成分を,固体試料調製法を利用したマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)により,溶媒抽出等の成分分離に伴う様々な問題を回避して,直接解析する手法を開発した.まず,ポリプロピレン材料に微量添加された高分子量のヒンダードアミン系光安定剤(HALS)について,安定剤を含む樹脂試料を固体のマトリックス試薬と粉砕混合して,MALDI-MS測定することにより,分子量8000程度までの当該HALS成分をマススペクトル上に直接観測した.また,試料調製時に,アンジオテンシンIを内部標準として添加することにより,HALS成分の定量も可能であった.更に,紫外線照射した樹脂試料をMALDI-MS測定することにより,HALSの構造変化を明らかにして,光安定化挙動についての知見を得た.次に,アカシア属の木粉試料を直接MALDI-MS測定することにより,木材中に含まれる代表的なポリフェノールである縮合型タンニンを解析した.マススペクトル上には,少なくとも重合度が10に及ぶタンニン縮合体が分子量3000程度まで観測された.これを詳細に解析することにより,水酸基の数の異なるタンニン成分の分布がアカシア族の種類によって差異があることが示唆された.また,代表的な動物プランクトンである,ミジンコの乾燥した1個体を試料プレートに置き,ピンセットで解体後,マトリックス試薬等の溶液を滴下し,溶媒を乾燥してMALDI-MS測定した.この操作により,試料ミジンコ中に合まれる脂質成分をマススペクトル上に観測することができた.この方法では,個体ごとの乾燥重量が数〜数十μgしかないミジンコ1個体の脂質成分を直接解析し,細胞膜を構成するリン脂質などの構造脂質と,エネルギー源として蓄えられるトリアシルグリセロールなどの貯蔵脂質とを明確に区別しながら,構成脂肪酸分布などについての情報を得ることができた.更に,オン・プローブ法と呼ばれる簡便な固体試料調製法を用いて,培養した細菌試料を培地ごと試料プレートに採取し,マトリックス試薬等を滴下してMALDI-MS測定を行うことにより,細菌の細胞膜を構成する脂質成分の解析を試みた.この方法では,細胞壁の比較的薄い大腸菌などのグラム陰性菌については,脂質成分を容易にマススペクトル上に観測できた.更に,強固な細胞壁を有する枯草菌などのグラム陽性菌についても,試料調製時にトリフルオロ酢酸を添加することにより,細胞壁の分解が促進され,細胞膜を構成するリン脂質成分をMALDIマススペクトル上に明瞭(りょう)に観測することができた.
2007-05-05

マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による高分子及び生体試料中の微量有機成分の直接分析

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