第二の人生の原点として : 旧ソ連抑留俳句=宇野犂子・松崎鉄之介・高木喬一・若木一朗・小田保の場合
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概要
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シベリアに境界線はない。共和国や州や市などの行政区分がないからである。ロシア人が口にするシベリアは、ウラル山塊から始まる森林や大草原や凍土帯(ステップツンドラ)を東に向かい、太平洋沿岸近くの茫漠たる地域で終わる領土のことだという。日本から見れば、ウラル山塊を越えた欧露までシベリアに加えて考えられる。小稿では、旧ソ連抑留俳句のうち、東シベリア極東に抑留された宇野犂子、松崎鉄之介、高木喬一、若木一朗、小田保の五人の俳人を取りあげる。俳歴も立場も違うが、また、喬一、一朗、保の場合は帰還後に句作を始めた回想句である。回想句といっても、おぼろな記憶ではない。鮮烈に、忘れがたく焼きつけられた記憶である。これら五人の作品と、若干の手記をたよりに、秀句・佳句を選び、一句一句読み解くことによって、シベリア抑留の実態と、抑留者の心に思いを致したい。そこから何が見えてくるか、極限状況の人間の強さ、弱さ、心理をさぐり、シベリア抑留が抑留者にとって何であったのかを問うのが、小稿の目的である。シベリア抑留の体験記や手記や随筆は、膨大な数にのぼる。あえて、それらに目を通さなかったのは、その資料の膨大さもあるが、俳句と俳人の目を通して、そこから何が見えてくるのか、一七音の片々たる俳句が、いかなる力をもち得るかを確かめたかったからである。それは、なぐさめとか心の支えとかでなく、何を表現し得たかという文学的問題としてである。
- 九州女子大学・九州女子短期大学の論文
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