身体トレーニング効果の生化学的評価 : euglycemic clamp法を用いた検討
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概要
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インスリン抵抗性を評価する方法はいくつか存在するが,最も信頼性の高いゴールドスタンダードな方法はeuglycemic clamp法である.euglycemic clamp法は生化学的,生理的に骨格筋を中心とした個体の末梢組織のインスリン感受性を評価する方法であり,1979年にDeFronzoが考案し提唱した.私共は本方法を用いて研究を開始し,糖尿病,肥満,老化と運動に関して長年に亘り種々検討を加えてきた.以下,その概要を示す.(1)有酸素運動によるトレーニングの継続がインスリン抵抗性を改善させる.(2)低血糖の危険性や他のホルモンによる二次的影響を避け,よりphysiologicalな条件下でインスリン感受性の測定が可能である.(3)最大酸素摂取量(VO_2max)とeuglycemic clamp法によるグルコース代謝量との間には正の相関関係が見出された.(4)運動中のグルコース利用促進に関してGIRは運動中増加し,終了後減少するが,90〜120分後には再び増加する.(5)鍛錬者のGIRは対照群より有意に大である.肥満度とGIRとの間には負の相関関係が成立.肥満者では,肥満度に応じてインスリン抵抗性が増大する.(6)食事制限と身体トレーニングを行えば,体重減少とともに個体のインスリン抵抗性が改善する.また,腹部内臓脂肪を中心とした体脂肪量が選択的に減少する.インスリン感受性の改善度と歩数計による1日歩数とは正の相関関係がある.一方,極端な食事制限による減量では体脂肪は減少せず,インスリン抵抗性も改善しない.(7)VO_2maxが影響を及ぼさない軽・中等強度の身体トレーニングでも,長期にわたり継続すれば,体重の変化を伴わないインスリン感受性改善を認める.(8)有酸素運動は,無酸素運動より,個体のインスリン感受性に有用である.(9)高齢者ではhigh-dose clampでのインスリン反応性の低下が著しいが,高齢鍛錬者では若年鍛錬者と同一レベルに維持される.高齢者においてレジスタンストレーニングのみの実施では,インスリン作用の回復は顕著でなかったが,有酸素運動とレジスタンス運動を実施するとインスリン感受性,インスリン反応性両者とも回復した.(10)インスリン感受性で代表されるトレーニング効果は3日以内に低下し,1週間でほとんど消失する.(11)ラットにおいて,インスリン感受性改善には,GLUT-4蛋白量の増加が関与している.インスリンシグナル伝達系のIRS-I, PI-3kinaseのmRNAの発現量,蛋白量関与の可能性もある.また,2DGグルコースを用いて,glucose uptakeの促進というトレーニング効果の消失を運動中止64時間後に認めているが,トレーニング中止から3日後にインスリン感受性の亢進が消失するというeuglycemic clamp法による成績と一致している.結論として,euglycemic clamp法を用いた身体トレーニング効果の生化学的評価について概説した.過栄養・運動不足によりメタボリックシンドロームの増悪が考えられるが,その重要なキーワードとしてインスリン抵抗性が存在する.このインスリン抵抗性を評価するにはeuglycemic clamp法が必須であり,本法を用いて今後尚基礎的,臨床的な検討を加える必要がある.
- 2006-03-10
著者
-
佐藤 祐造
愛知学院大学心身科学部
-
宇野 智子
愛知学院大学保健センター
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佐藤 祐造
愛知学院大学心身科学部健康科学科
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佐藤 祐造
愛知学院大学 心身科学部健康科学科
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佐藤 祐造
愛知学院大学
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宇野 智子
愛知学院大学 心身科学部健康科学科
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