ベンチャー企業育成のための課題 : 日米比較の視点を中心として
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本論文は、ベンチャー企業育成のための環境整備のあり方について、主として金融面から日米比較の視点を織り交ぜつつ検討するとともに改善の方向を具体的に示すことを目的とする。アメリカの場合、上場を目指すベンチャー企業に対しては、その発展段階に応じて資本市場調達の途が開かれている。実際、エンジェル、ベンチャーキャピタルなどがベンチャー企業の資金調達を支えており、成功した暁にはリスク負担に相応した報酬を得る。ベンチャーキャピタルの原資は年金基金や金融機関に運用委託された個人マネーであり、そういった機関投資家の資産運用行動がベンチャー企業による果敢な投資行動を支えるとともに監視・規律づけているのである。個人によるリスク負担はまた、総合課税を原則とするアメリカに独特な投資家にやさしい税制により支えられている。 それゆえ、日本においてベンチャー市場、資本市場の活性化を促すに際しては、ベンチャー企業経営者を監視・規律づけるメカニズムを強化すると同時に、税制についても投資家にやさしいものへと改変することが強く求められる。そのためにも、東証マザーズ等の新興株式市場についてはマーケットメーカー制の導入を義務づけることにより、新興市場の担い手である証券会社の引き受け・売買行動を監視・規律づけるメカニズムを強化する、という措置の実施を提案したい。それはまた、日本の金融が長年にわたって銀行を中心として構成・運営され、資本市場の健全な育成・発展が政策目標の視野に入っていなかったことを意味している。そうした事態を改善すると同時に日本版ビッグバンが究極の目標としていた奥行きの深い資本市場を日本のなかに作り上げるためにも、政府においてはベンチャー市場の全体像をも見据えて金融制度の改革に取り組む必要があるといえよう。In this paper, policy measures for promoting venture business activities in Japan are discussed from a comparative perspective with the U.S. In the U.S., activities of venture businesses after the IPO are closely monitored by their market makers, in addition to venture capitalists whose investment activity is positively supported by investor-friendly tax rule. Taking these institutional aspects into account, we propose that equity market in Japan for venture businesses like TSE Mothers should be organized into one led by market makers modeled after NASDAQ and that the tax rule should be modified to be friendly with investors for ventures.
- 同志社大学の論文
著者
関連論文
- 2003年以降における中小企業の経営財務面での動きをめぐって : CRDの分析結果から
- 銀行の不良債権問題と資本市場の経営監視機能
- 金融システムの進化と市場型間接金融 : 消費者利益向上の視点から
- グローバル化, 情報化と日本型金融システム : メインバンク関係の変容を中心として
- 石井寛治著, 『経済発展と両替商金融』, 有斐閣, 2007年, 290頁+5頁
- 銭匁勘定と銭遣い : 江戸期幣制の特色を再検討する
- 幕末期,藩札は濫発されたのか : 藩札発行高推計に基づき,濫発論を再検討する
- ベンチャー企業育成のための課題 : 日米比較の視点を中心として
- 比較経済史からみた三貨制の意義と特色 (小森瞭一教授古稀記念論文集)
- 地域通貨と経済活性化
- 江戸時代初期における私札の発展 : 伊勢国射和地方で発行された富山札を中心として
- 江戸期大坂における両替商の金融機能をめぐって
- 粕谷誠・伊藤正直・齋藤憲編著, 『金融ビジネスモデルの変遷』, 日本経済評論社, 2010年8月, x+364頁, 8,000円+税