大槌湾の海草上に生息するキタノカラマツガイの生活史と個体群動態
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
岩手県大槌湾の海草藻場において, 本州以南では初記録となるキタノカラマツガイの生活史と個体群動態について調査した。野外調査は1995年10月から1996年11月までおよそ一ヶ月または一ヶ月半おきに行われた。貝はアマモとタチアマモの各群落からかぶせ網で定量的に採集された。海草の葉上に付着する卵塊の観察により, キタノカラマツガイの卵塊は11∿22個の卵が入ったカプセル型であり, 卵はプランクトン幼生期を経ずに底生発生することが示唆された。キタノカラマツガイの繁殖期は初夏であり, 寿命は一年であった。新規加入により5月から6月にかけて個体群密度が急激に増加し, 夏期は比較的高い密度が保たれているが, 8月から10月にかけて著しく減少した。密度の増加はアマモとその付着藻類の豊富な時期と一致しており, また密度の減少はアマモと付着藻類の減少と一致していたことから, 生息場所や餌量が個体数の制限要因になっていることが推察された。特に密度の減少期には個体の成長が停滞していたため, 餌不足が個体数減少の重要な要因であると考えられる。タチアマモ上の個体群密度はアマモ上に比べ年間を通して低く, また新規加入がタチアマモではほとんど見られなかったことから, キタノカラマツガイは生息場所としてタチアマモよりもアマモの方を好むことが示唆された。生息場所の選択に関しては海草2種の群落構造の違いが影響を及ぼした可能性がある。例えば, 平面的な形態的特徴を持つ本種にとって, 一年を通して茎部が少なく平たい葉が優占するアマモの方が付着基質として優れていること, また笠貝は一般に移動力が小さいため, 株密度が低く間隙の多いタチアマモ群落よりもより連続的に分布するアマモ群落の方が生息に好条件であることなどが考えられる。
- 2001-06-30
著者
-
土田 英治
Ocean Research Institute, University of Tokyo
-
豊原 哲彦
Akkeshi Marine Biological Station Hokkaido University:(present Address)marine Biological Research In
-
仲岡 雅裕
Ocean Research Institute, University of Tokyo
-
仲岡 雅裕
Ocean Research Institute University Of Tokyo
-
土田 英治
Ocean Research Institute University Of Tokyo
-
豊原 哲彦
Akkeshi Marine Biological Station Hokkaido University:(present Address)marine Biological Research In
関連論文
- 日本の海域から淡青丸によって採集された稀産リュウグウボタルガイ類 2 種(腹足綱 : マクラガイ科 : リュウグウボタルガイ亜科)
- 岩手県・大槌湾から再発見されたキタノカラマツガイ
- 大槌湾の海草上に生息するキタノカラマツガイの生活史と個体群動態
- 伊豆七島近海で採集されたハワイツグチガイ属の 1 新種
- 海草藻場における葉上動物の生態 (特集 アマモ場)
- 紀伊半島潮ノ岬周辺海域における貝類相の研究 IV : 串本西岸沖合産のシチクガイ属の 1 新種
- 紀伊半島潮ノ岬周辺海域における貝類相の研究 II : 串本西岸沖合産のタケノコガイ類 2 種
- 28. 岩手県大槌湾の多板類相(日本貝類学会平成 10 年度大会(名古屋)研究発表要旨)
- 19. 日本産タケノコガイ科貝類 3-4 種の再検討(日本貝類学会平成 10 年度大会(名古屋)研究発表要旨)
- 36. 東京湾口で採集された鯨骨に群がる深海二枚貝(日本貝類学会平成 9 年度大会(神戸)研究発表要旨)
- 日本海見島・角島周辺海域から淡青丸で採集された海産貝類
- 相模湾初島沖のシロウリガイ群集内及び周辺に棲む腹足類 5 種
- 大槌湾に生息するフリソデガイ Yoldia notabilis YOKOYAMA の外部成長輪による年齢査定および成長の解析
- 紀伊水道の漸深海帯から得られたロウバイガイ科の 2 新種
- (22) 深海性腹足類ヘソアキコガネエビスガイの再検討と属位について(日本貝類学会平成元年度総会)
- 三重県伊勢湾口から採集されたツノガイ科の 1 新種
- 41. 奄美大島周辺海域における深海性貝類の分布と特性(平成 6 年度大会(東京)研究発表要旨)
- 2. 日本海西部海域で採集されたツバイの形態と深度分布(平成 6 年度大会(東京)研究発表要旨)
- 9. 淡青丸で得た南西日本海域の深海性貝類(平成 5 年度大会(千葉)研究発表要旨)
- 20. 山口県見島沖周辺海域の貝類(平成 3 年度総会(鳥羽市)研究発表要旨)
- 26. 日本産のワタゾコシロアミガサガイ科貝類は 2 種(平成 2 年度日本貝類学会総会研究発表)
- 紀伊半島潮ノ岬周辺海域における貝類相の研究 III : オヨギシタダミの所属について
- ウラウズカニモリガイ属 2 種の再検討
- 18. 紀伊水道沖合海域の漸深海帯の貝類(日本貝類学会 60 年度総会)
- 深海性イガイ科二枚貝スエヒロマユイガイの分布, 生活様式並びに相対生長
- Elaeocyma (Splendrillia) aurora シノノメモミジボラ(新称)の南シナ海から再発見
- 紀伊半島潮ノ岬周辺海域における貝類相の研究 I : 串本西岸沖合のマツヤマワスレガイとコマツヤマワスレガイの分布
- (10) 日本産 Solariella 属の再検討(日本貝類学会創立 55 周年大会(58 年度総会))
- No.26 : 紀伊水道沖合海域のカワタイラギの深度分布について(I. 記念式典及び総会, 日本貝類学会創立 50 周年記念大会)
- 紀伊水道沖合海域におけるリンボウガイとハリナガリンボウの深度分布について