ギルド内捕食は捕食者のパフォーマンスを高めるか : 生態化学量論からのアプローチ(<特集1>生物間相互作用と群集構造:生態化学量論、間接効果、そして進化)
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概要
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昆虫を中心とした陸上節足動物群集には、共食い、雑食、ギルド内捕食などのように複数の栄養段階の餌を食べる雑食性が広く見られる。ギルド内捕食が捕食者のパフォーマンスを向上させるのか否かを明らかにするために、生態化学量論、すなわち、異なる栄養段階の生物の間で窒素含有率やC: N比などの化学量の相対的バランスを比較するアプローチによる以下の実験を行った。アメリカの潮間帯湿地の陸上節足動物群集は、大型のコモリグモ類を上位捕食者として、その下に小型のクモや卵捕食性のカスミカメムシ、植食者のウンカ・ヨコバイ類を中心に構成されている。この群集の4つの栄養段階(植物、植食者、雑食者、捕食者)を構成する種の窒素含有率の平均値は、栄養段階が高くなるにつれて(植物<植食者<雑食者<捕食者)高くなり、逆にC: N比は低下した。このことから、捕食者は植食者に比べて生態化学量からみて優れた餌であることがわかった。次に、ギルド内捕食した場合に捕食者の成長率が速くなるか否かを明らかにするため、餌種の生態化学量を考慮した捕食実験を行った。その結果、上位捕食者のコモリグモに同一ギルド内の捕食者である小型のコサラグモを餌として与えた実験では、コモリグモの成長率は、植食者のウンカを餌として与えた場合に比べて低く、逆に同一ギルド内の捕食者であるカスミカメムシを餌として与えた実験では、植食者のウンカを餌として与えた場合に比べてコモリグモの摂食量が増加し成長が速くなった。2つの実験で異なる結果が得られた理由として、餌種の行動的な特性が生態化学量以上に捕食の成否、ひいてはコモリグモの捕食量や成長率にも大きく影響したと考えられた。以上から、潮間帯湿地の陸上節足動物群集において、栄養段階の高いグループほど高い窒素含有率を持つことが確かめられたものの、「窒素含有率の高い捕食者をギルド内捕食する場合に捕食者の成長が速くなる」という当初の仮説を支持する結果は得られなかった。ギルド内捕食によるパフォーマンスの向上には、生態化学量の影響よりも、むしろ餌種の捕獲されやすさや捕食に対する防御行動に起因した摂食量の違いが大きく影響していると考えられた。
- 日本生態学会の論文
- 2005-12-25
著者
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