鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第34報 : 「大型鳥類等による農産物被害防止等を目的とした個体群管理手法及び防止技術」に関する研究(5年間のまとめ)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1. 渡来個体数(越冬個体数)について,渡来してから渡去までの各月について調査の結果,1月中旬にもっとも安定して最多個体数が得られるので,例年1月中旬に渡来個体数調査を実施することが望ましい。渡来個体数の調査は,朝の飛び立ちを数えるよりも,夕方の帰塒時に行うことがより的確に個体数を把握できる。渡来個体数は,現在9,000羽を前後した数が確認されているが,今後継続した調査を必要とするものの,これまでの資料からみて今後これ以上急激な個体数の増加はないものと考えられる。2. 初渡来はナベヅルとマナヅルが相半ばしているが,初渡去は圧倒的にマナヅルが早い。時期については,その年の気象条件に左右され一定していない。渡来数や渡去数の増減は,変動が大きいが,主群は11月中旬から12月にかけて渡来している。3. 出水平野に渡来したツルは越冬期間中2つの集団にわかれた生活をしている。すなわち,ねぐらに隣接する給餌地域において大きな集団として1日中給餌に依存して生活している群と,朝ねぐらを飛び立ち広く平野に分散して野外自然において採餌生活をしている群,いわゆる分散個体群とである。後者は成鳥と幼鳥からなる家族個体群として生活している集団である。4. 分散地域に分散するツルの分散率は,1993年,1994年は増加しているが,それまでは1985年以来減少の傾向があり,ナベヅルでその傾向が強く,マナヅルにおいては1991年,1992年に減少したが,全体としてはむしろわずかに増加の傾向がある。5. 15カ所の分散地域における1985年以来の分散個体数について調査した結果,年次的に減少している地域,逆に増加している地域,またほとんど変化のみられない地域とがあり,しかもマナヅルとナベヅルとでは,その挙動が必ずしも一致していないことが明らかとなった。両種の習性及び分散地域の環境の変化についての今後の検討が必要である。6. 分散地域におけるツル個体群の幼鳥率をみると,ナベヅルが27.1%,マナヅルが32.3%とほとんど変動がないか,変動が少ない。これは平均的にみると雌雄の成鳥が1羽の幼鳥に等しくこの個体群が家族群からなることを示している。このことは家族構成の上からも認められた。7. 給餌地域において日中生活する大集団は幼鳥率がナベヅルで15.9%,マナヅルで14.6%と年次的にほとんど変動がない。このことはその集団構成がきわめて安定していることを示しているといえる。すなわち幼鳥をもたない成鳥及び亜成鳥とわずかの家族群で構成されていると考えられる。かなり人為的給餌に馴化した集団であるといえよう。8. 給餌地域周辺のいわゆる休遊地のツルの行動は注目すべきで,ナベヅルとマナヅルでは異なる行動がみられる。ナベヅルの場合調査期間のはじめは分散地域と等質の個体群であったが,以後給餌地域と同じ性質をもつに至っている。マナヅルの場合は南西部は現在まで分散地域と同じツルの個体群であり,2〜8線以東地域は激しく変化している。東西干拓地では飛来するツルの集団はナベヅルとマナヅルとでは異質的である。ナベヅルの場合は給餌地域と同質の集団と家族個体群とが混じってみられるのに対し,マナヅルの場合は西干拓地は明らかに分散地域の性格をもっている。9. 給餌地域においてはムギを主とした餌が与えられているが,北帰行前にはイワシが与えられている。1羽当たり1日100〜150gが投与されている。給餌量に対して採餌量の調査がなく,今後この調査によって合理的な給餌作業が行われることが望まれる。10. 野外においてはクログワイ,ミズガヤツリ,ヒメホタルイ,コウキヤガラ等の水田雑草の根茎を採食することが確認された。その採取量は生重量1,518kg/ha./越冬期間と推定された。11. 農作物に対しては積極的加害行動は認められない。防護網はツルの農地への侵入をほぼ完全に防止できる。また,防護網その他の防護施設とツルの加害との関係を調査した結果,加害が見られないことが確認された。12. ツルの渡来,渡去の際の微気象条件,ツルの移動経路等についての調査と記録資料の収集を行った。
- 国立科学博物館の論文
- 1996-03-25
著者
関連論文
- ヒキガエルの生態学的研究 : (IX)繁殖期の行動
- 自然教育園における繁殖鳥類の変動
- 東京都におけるカラス類の就塒個体数について
- 「鳥類(カラス類を主とした)と人との関わりに見られる都市環境の変化」の研究(平成9年度)
- 「鳥類(カラス類を主とした)と人との関わりに見られる都市環境の変化」の研究(平成8年度)
- 「鳥類(カラス類を主とした)と人との関わりに見られる都市環境の変化」の研究(平成7年度)
- カラス類の生息状況に関するアンケート調査について(平成7年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第34報 : 「大型鳥類等による農産物被害防止等を目的とした個体群管理手法及び防止技術」に関する研究(5年間のまとめ)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第33報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成6年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第32報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成5年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第30報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成4年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第29報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成3年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第28報 : 国際保護鳥ナベツル・マナヅルの保護・管理手法に関する研究(5年間のまとめ)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第27報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成2年度)
- 自然教育園の鳥類の記録(1988〜1991)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第25報 : 標識ツル類の観察資料 4(昭和63年度と平成元年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第24報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(平成元年度)
- クマゲラDryocopus martius martius(Linnaeus)の食性
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第23報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(昭和63年度)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第22報 : 出水平野の気象調査(3)初渡来日の気象条件
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第20報 : 出水平野の気象調査(2)1987年・1988年の気象観測記録
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第16報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(昭和62年度)
- 自然教育園の鳥類の記録(1985〜1988)
- 出水平野の気象調査(鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第14報) : (1)気温・風向・風速の年変化について
- 「ツルと人間と共存するためのありかたについての意見」・意識調査について(鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第8報)
- ツル類の生息状況に関するアンケート調査(昭和61年度)(鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第7報)
- 鹿児島県出水平野におけるツル類の基礎調査 第2報 : ツル類の生息状況に関するアンケート調査(昭和60年度)
- 土地利用と鳥類調査の一例
- 自然教育園の鳥類の記録(1982〜1984年)
- 坂元正典先生と自然教育園 (坂元正典教授古希記念特集)
- 自然教育園に関する文献目録(4) : 各論 : 無機環境に関する文献(1)
- 自然教育園に関する文献目録(3) : 各論 : 植物に関する文献(1)
- 自然教育園の鳥類について(1979〜1981年)
- 自然教育園の鳥類について : 新たに記録された鳥類などの追加
- 自然教育園におけるシジュウカラの繁殖個体数について(1976年度)
- 動物関係調査の結果と考察
- 自然教育園に関する文献目録(2) : 各論 : 動物に関する文献(1)
- 自然教育園に関する文献目録 : (1)自然教育園の出版物について
- ヒキガエルの生態学的研究 : (IV)発信器着装による行動軌跡
- 自然教育園の鳥類について
- アカショウビンの食餌物
- 自然教育園の微気象について(3)環境要因の測定
- 三重県桑名郡多度町におけるツバメ(Hirundo rustica)の繁殖記録(自然教育園資料のまとめ)
- 自然教育園内の微気象について(2) : 正門附近の気流系の調査結果
- 自然教育園の鳥類群集について
- 火力・原子力発電所の環境影響調査書における陸生哺乳類と生息環境
- 天然記念物指定の鳥
- 天然記念物指定の鳥
- 自然教育園の生物
- ブナ林とクマゲラたち
- 食べものをめぐる生物のつながり (自然とのふれあい)
- 数種のコウモリの観察知見