超音波振動による実験的歯の移動の促進効果 : 第 1 報矯正力と同方向への超音波振動の付与

概要

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矯正学的な歯の移動を促進させるさまざまなアプローチが生力学的あるいは薬理学的になされてきたが, 確立された方法として定着されるには至っていない.本研究は, 物理的エネルギーの一種である超音波振動を添加することで歯の移動促進が可能か否か, また歯の移動によって惹起される歯根吸収にどのような影響を及ぼすかについて実験動物を用いて検討した.雄性ビーグル成犬7匹を用い, そのうちの5匹を矯正移動群とし, 他の2匹については歯の移動を行わない未治療群とした.矯正移動群では上顎両側第一前臼歯を抜歯して, 犬歯と第二前臼歯間に矯正用角ワイヤーとエラスティックモジュールを介して80gの矯正力を8∿10週間付与して, 抜歯空隙の閉鎖を行った.各個体の任意の片側を実験側として, 歯の移動と同時にその第二前臼歯の遠心隣接面から近心方向(矯正力と同方向)に, 超音波スケーラーの先端を改変した超音波振動器を2週間毎に2分間付与し, 反対側を歯の移動のみの対照側とした.歯の移動期間中は2週間毎に上顎歯列の印象採得を行い, その模型から歯の移動量を計測した.また, 歯の移動終了後の動物は屠殺後, 脱灰切片用の3匹はH-E染色を施し光学顕微鏡を用いて組織観察を行った.非脱灰切片用の2頭では, 歯の移動開始時から塩酸テトラサイクリン(15 mg/Kg)ならびにカルセイン(15 mg/Kg)の皮下注射を2週間毎に交互に行って骨染色を施し, 蛍光顕微鏡にて観察した.組織切片上で歯根吸収の程度を二次元計測(歯根吸収率(%)=吸収部面積/歯根総面積×10^2)し, 定量的評価を行った.その結果, 1. 超音波振動を付与した第二前臼歯の近心移動量は対照側に比べ有意に大きかった.一方, 超音波振動が波及しない犬歯の遠心移動量には両者の相違はみられなかった.2. 矯正学的歯の移動に伴う歯根吸収は程度の差はあるもののすべての第二前臼歯に認められたが, 犬歯においては全く認められなかった.3. 第二前臼歯の歯根吸収率は実験側で対照側よりも少ない傾向がうかがわれたが, 両者に統計学的有意差はなかった.以上の所見より, 超音波振動は矯正学的歯の移動を促進し, しかも歯根吸収を増悪させない有用な治療法である可能性が示唆された.今後はより詳細な超音波振動の付与方法や装置の改良を検討し, 矯正臨床におけるより安全ですみやかな歯の移動方法を確立したい.
日本矯正歯科学会の論文

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