歴史生物地理学における分断概念 : 地域分岐図の構築に関する系統推定論上の問題点
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概要
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歴史生物地理学におけるvicarianceの概念について, それがたどってきた概念史を概観した。もともと生物地理学で用いられてきたvicarianceは近縁種の空間的な「代置」(substitution)という分布パターンを意味しており, Hennig理論に基づく系統生物地理学はこの用法に準拠していた。一方, Croizatに始まる汎生物地理学もまた代置の意味でこの言葉を用いているが, 「代置的生物進化」(vicariant form-making)という進化理論を背景にしている点に特徴がある。これらの用法に対し, 分断生物地理学では同所的に分布する複数の生物群に対する共通原因すなわち生物相の「分断」(fragmentation)の意味でvicarianceを用いた。共通原因/個別原因としての分断/分散は, 分岐分析における共有派生形質/ホモプラシーに相当する関係にある。次に, 分断生物地理学が解こうとしている地域間の近縁性の問題を「居住地/居住者問題」(the "habitation-inhabitant"problem)として一般化した。居住者の系統関係と地理的分布の情報に基づいて居住地の系統関係を推定するというこの居住地/居住者問題は, 生物地理学だけでなく分子系統学・共進化解析などとも共通する問題である。これらの問題の共通点は, 「形質」それ自身が「系統」を持つという点である。最後に, 分断生物地理学の観点からこの居住地/居住者問題を解決するためのいくつかの解析的手法-成分分析法・ブルックス最節約法・群整合性分析法・三対象分析法-について議論した。種分岐図における欠損地域・広域分布種・重複出現がこれまで分断生物地理学において論議の的となってきた一つの理由は, それらを含む分岐図が通常の分岐分析で生じる分岐図の性質を満足していないことにある。半順序理論などの離散数学を用いることによりこれらの問題にアプローチできるだろう。
- 日本植物分類学会の論文
- 1993-12-30
著者
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