タイ国産アカネ科雑記
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概要
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Mycetia属はヒマラヤ,中国南部と南西部,さらに広く東南アジアに分布し,約30種が知られている。多くは1~1.5mの低木で,わずか30cmほどの小低木もある。茎はすぐ白っぽく柔い周皮が形成され,特有の色調をもった茎となる。苞やがくに長い柄がありその先が頭状にふくらんだ腺毛があるものと,腺毛の不明瞭なものとがある。花冠は黄色,希に白色である。漿果は白い。これらの特徴で他の属と容易に区別できる。M. caulifloraとM. fasciculataの花には長花柱花と短花柱花の2型があることが知られている。昨年7月から9月にタイ国のDoi InthanonとPhu Kradungで植物の調査をする機会があり,前2種に近縁なM. gracilisの生植物を観察することができた。この種にもやはり2型花があり,個体ごとに定っていることがわかった。引用した標本の数から明らかなように,収集された標本の量は多くはない。また標本の質についてもまだまだ不満足なものである。例えばDoi InthanonとDoi Suthepに特産するM. rivicolaはKERRが採集した基準標本だけに花があり,他の標本は総て花がなかった。昨年の7月中旬Doi Inthanonで注意して花を探した。残念なことに花期がほとんど終りで,数個体に花を見ただけであった。タイ国産のMycetia属12種の内まだ花が採られていない種もある。熱帯域といえども花期が限定されている種も多く,分布の狭い種は花期も短いようである。上でふれたDoi InthanonとDoi Suthepは多くの植物学者が訪れている山である。M. rivicolaの花は鮮やかな黄色なので,花があれば目につく。花の標本がないのは単に花期の問題に過ぎない。京都大学を中心にタイ国の植物の調査がたびたびされてきたが,いずれも7月中旬から3月中旬に限られ,4,5,6月に調査されたことはない。花についての情報が得られないことは,被子植物を研究の対象にする者にとっては,致命的である。今後標本の量とともに質的向上にも留意する必要がある。
- 日本植物分類学会の論文
- 1989-07-30
著者
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