Carallia eugenioideaの再検討とスマトラ産の新変種
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概要
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ヒルギ科にはオヒルギやメヒルギのように塩性湿地にはえ、マングローヴ林を形成する属の他に、内陸生の属がいくつか分化している。後者の中の1つ、Carallia属はマダガスカルやインドからマレーシア地域、北部オーストラリアとソロモン群島にまで分布している。Flora Malesianaでヒルギ科を分担したDing HOU(1958)はマレーシア地域のこの属を分類学的に整理して8種を認めている。その中で、彼は花序の苞や小苞が合着しておらず、開花後は脱落するC. eugenioideaとsれに近縁な種を1種にまとめてしまっている。スマトラ自然研究計画による西スマトラ州での調査のなかで、このC. eugenioidea群の1種がパダン市の東野ガド山で採集された。この群の花序は通常の3個以上の花が集散花序を形成するのであるが、このガド山地域のものはほとんどの場合花序は1個の花のみからなり、マレー半島のC. eugenioideaとは、多少異なるように見受けられた。それでシンガポール植物園標本館とボゴール標本館のこの群の標本を比較・再検討してみると、スマトラ産とマレー半島山では花序あたりの花の数が異なるだけでなく、葉形もスマトラ産の標本がわずかに細い傾向があることが明らかになった。一応、変種C. eugenioidea var. sumatrensisとして区別し、記載する。この新変種に含まれる標本は、西スマトラ州だけでなく、スマトラ北部からも採集されているので、分布域は広いものと思われる。またRIDLEY(1922)が葉の大きさなどからC. eugenioideaから別種として区別したC. montana RIDLEYは、形態が区別しがたいだけでなく、その垂直分布ゾーン(山林カシ林域にある)でも、地理的分布の重なる点からもDing HOUの主張のように同種とされるべきものであった。他方、彼が、C. eugenioideaに含めてしまったC. euryoides RIDLEY(1922)は、葉形(細く、先端はとがる)が異なるだけでなく、乾燥標本の葉の色は黄緑色をおび、C. eugenioideaのように黒くはならない。また、垂直分布も500m異花の低地-丘陵地帯に限られ、分布地域は半島西部だけで、生態的にも分布域は重なっていない。明らかに、別種である。
- 日本植物分類学会の論文
- 1986-12-25
著者
-
伊藤 元己
Department of General Systems Studies, Graduate School of Arts and Sciences, University of Tokyo
-
堀田 満
西南日本植物情報研究所
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堀田 満
Biological Laboratory, Yoshida College, Kyoto University
-
伊藤 元己
京都大学理学部植物学教室:(現)東京都立大学理学部牧野標本館
-
堀田 満
鹿児島大学理学部地球環境科学科
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