コウヤワラビ群における類縁
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概要
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コウヤワラビ群は5種からなる小さい群で,一般には単型属コウヤワラビ属,Onocleopsisと3種からなるクサソテツ属に分類される(LLOYD, 1971)。群内の類縁関係を検討したところ,イヌガンソクはコウヤワラビに,クサソテツはMatteuccia(=Onocleopsis) hintoniiに共通する形質を多くもつことが明らかになった。すなわち,前者2種では根茎は匍匐しストロンを出さず,葉柄基部は嘴状に細くはならず,葉柄・中軸の向軸面はほぼ平らで溝がない,栄養葉は三角状卵形-卵形で,羽片特に下部羽片は基部が細くなる。後者2種では根茎は直立しストロンを出す,葉柄基部は嘴状に細くなる,葉柄・中軸の向軸面に明らかな溝がある,栄養葉は倒被針形-長楕円形,羽片は基部が細くならずむしろ下部羽片基部は耳状に突出する。またコウヤワラビとイヌガンソクにみられる前葉体上の毛はクサソテツとMatteuccia hintoniiにはない(百瀬,1958; LLOYD,1971)。相関したこれらの形質はイヌガンソクはコウヤワラビと,クサソテツはMatteuccia hintoniiとより近い類縁関係にあることを示唆する。胞子の周皮がイヌガンソクとクサソテツで相当に異なっていることもこの関係と矛盾しない。BOWER(1928)はコウヤワラビ群でも葉脈は遊離脈から網状脈へ複雑になるという一般傾向があったとみて,遊離脈の栄養葉をもつクサソテツ属を原始的と考えた。ところがその胞子葉は葉脈,ソーラス(隣接のものが1つの包膜に包まれることがある)の形質で退化的であり,栄養葉の葉脈においても単純化が起った可能性がある。いくつかのシダ群でも葉脈の単純化が起ったとみなされている(HOLTTUM,1947; HENNIPMAN,1977; HAUFLER,1979)。一方コウヤワラビとMatteuccia hintoniiは葉脈,胞子葉,胞子の周皮形態の点で互に類似する。これはイヌガンソク・コウヤワラビ群とクサソテツ・Matteuccia hintonii群がコウヤワラビとMatteuccia hintoniiを通して系統関係をもっていることを示唆する。コウヤワラビ群の分類上の位置については,この群はこれまでヘゴ科,オシダ科,メシダ科,シシガシラ科などと比較されてきた。今回推定した群内の類縁関係を念頭において形質の比較を行うとメシダ科,シシガシラ科との共通点がいくつかみられる。しかし今のところ問題提起にとどまり,その解明には,それぞれの科の中に類縁関係がより明らかにされる必要がある。
- 日本植物分類学会の論文
- 1980-11-10
著者
-
加藤 雅啓
東京大学理学部附属植物園
-
佐橋 紀男
東邦大学 薬学部・理学部
-
加藤 雅啓
Department Of Botany National Museum Of Nature And Science
-
佐橋 紀男
School of Pharmaceutical Sciences, Toho University
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