タッソの劇詩「アミンタ」
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概要
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Tassoの劇詩Amintaは、彼の韻文作の中でも初めてのものではなく、叙事詩Rinaldoや数多くの抒情詩が既に先立って作成されているが、しかしこの作品は、彼の詩的才能が非凡であることを世間に明らかに公表した点から言えば、全く最初の詩作品と言えるものであって、しかも批評家によって様々の解説や、外国の読者によっても評判をえ、きわめて広汎に推賞されつづけてきたものなのである。Tassoが最初に書いたのは、一五七三年の春であり、これが劇詩であるために最初に上演されたのは、Gelosi一座劇団によってFerrara郊外のPo河にあるBeldevere島上でのものであるが、おそらく七月三十一日頃であったようである。この芝居は、大変な喝采を受け、その評判は高く、その見事さ、楽しさがいっぱいの奇想、簡単とはいえ、まことに感動的な筋の運びなどは、今まで上演されたこの種の芝居の中でも、最も魅力あるものであったらしく、特にこの田園詩に非常な魅力と楽しさを加えていたものは、各幕合にコーラスCoroを添えたという新鮮味にあって、堂々たる厳めしさと魅惑的な奇想とが相俟って観客に大いなる喜びを与えたと記録されているほどである。Amintaは、当時の宮廷人士の欲求と合致し、確かに大なる成功を博し、Tassoの評判と名声を十二分に確立した。年を追って、恐らく他にも数回となく上演が行なわれていたようであり、かなりの数の台本の写しもあったに違いないが、一五八一年の初期にVeneziaでAldo Manuzioが初版本を発行するまでは、印刷本はなかったようである。初めの頃の上演の脚色ではMopsoの挿話もコーラスも含まれていないようである。これらの素材は、恐らくやや後になって付け加えられたものであろうが、それでもごく初期の脚本には完全なものとしてはみられない。この上演以降、出版までに長い猶予期間があった理由は、多分、作品の形式と内容の最終的決定に対するTasso自身の躊躇と、この間の叙事詩制作のための没頭とによるものであったであろう。TassoがSant'annaに幽閉されていた頃、Amintaの印刷に先鞭をつけたのがAldoであった。Tass自身は、この出版に際しては大きな喜びを表明したが、直ちに改良した完全な版本の発刊意図を明らかにしたものの、彼が満足したと言えるほどの版は、一五九〇年になるまでは現われていない。初期の印刷版と写稿の殆んどは、その表題としてAminta, Favola Boscherecciaを用いているが、またComedia Pastoraleとか、Favola Pastorealとか、ただPastoraleまたはEclogaと名づけられているものもある。このような表題の多様性は、Amintaそのものが、なんら明白な規定された文学類型に属しない証拠であるが、それにしても或る種の文学上の先例をもち合わせているのである。この作品が含む要素はといえば、喜劇、悲劇、牧歌劇、田園抒情劇などあって、きわめて幅広い変種の組合せは、十九世紀末葉以降のTasso批評家達の間では、この劇詩の文学上の起源問答を湧き立たせるに充分であった。Carducciの主張では、このAmintaの背景は、BecariのSacrifizioや、CintioのEgleが作られたFerraraの宮廷同人の創作であるとしているが、一方RossiはFerraraでの劇作品は田園劇から発展したものであり、十五世紀の古典的田園抒情詩の展開であると論駁している。Amintaの作品そのものを考慮するとき、ここでは、起源の問題は、さして重要ではない。Tassoの心が絶えず叙事詩の構想に舞い戻り、このために複雑多岐な一組の文学理論さえ確立したGeru salemme Liberataに比べてAmintaには、なんら文学論文の覚書きもなく、批評家達の間で冗長な論争すらひき起こしてはいないからである。また、叙事詩の作詩への専念と、しかもTassoの生涯の殆んど全般にも及ぶ熱心な再三の改訂と比べてみても、Amintaの短時日の完成、殆んど書き下しともいえるほどに、訂正・改良もさほど加えられていない事実からしてみても納得できるものである。また、詩法の規則や理論についての彼の関心も僅かであるが、とはいえ、Tassoの常として、文学上の背景の回想は頻繁であり、周到なものであることも見逃せない。彼の脳裡には、確かに古典の田園詩を想起して描いているし、とりわけ、これらには、Theocritus, Meschus, Anacreon, Tibullus, Ovidius及びVergiliusのものがあり、さらに十五世紀イタリアのPulci, Boiardo, Serafino, Tebaldoその他の田園抒情詩、及びSannazzaroのArcadiaなどがある。こういった抒情詩の先例に加えて、Tassoが、十六世紀に文学類型にまで発展していた牧歌劇の盛んな上演を実演に見ていたこともAminta制作の動機として役立ったことは事実であろう。
- 1966-01-20
著者
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