経済地理学会における最近の研究動向と学会活動:1997-2001
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概要
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経済学の主流は経済システムの空間的側面にはそれほど関心を払って来なかったが,こうした状況は新しい地理的経済学の登場によって次第に変わりつつある.欧米における最近のいくつかの展望やリーディングスでは,政治経済学と新古典派経済学の両方の立場における経済地理学の再登場をよく裏づけている.日本国内の経済地理学者や中小企業研究者は,産業集積をめぐって独自の実証的な研究や政策提言に関わってきた.例えば,産業集積についての研究はしばしば英米でも取り上げられているし,外国人研究者も日本についての事例研究を著している.シリコンバレーや第三のイタリアはよく知られた例であるが,日本のいくつかの産業地区も,活力のある集積として研究されている.これらの産業地区についての実証的な研究は,地域内だけでなく,地域間やさらには国際的なリンケージも見られることを明らかにしており,空間的連関の分析上で集積やクラスターの側面だけを強調するのはそれを過大視することになろう.しかし,こうした既存の実証研究と新たな理論的発展の間での十分なやり取りがあるとは言い難い.新しい地理的経済学は抽象的なモデルにとどまるべきではないだろうし,より実証的な操作が可能な検討内容を提示すべきである.また経済地理学者も他の分野との交流を通じて,政策形成にも関与することが望まれるし,この学会としてもそうした経験をこれまでも全国大会や地域大会において続けてきている.1990年代中盤における急激な円高は,日本のメーカーや商社などの海外直接投資に拍車をかけた.国内の工場や下請企業は,海外への生産機能の移転による影響を被り,いわゆる空洞化問題が発生している.日本とアメリカの経済構造協議が始められ,日本政府は国内の農産物市場を開放することを決定した.アメリカ政府は大規模小売店舗法によってアメリカからの輸入が阻害されていることを問題として,この政策を規制緩和することを要求した.こういった規制緩和によって生じた地域的な影響の一つは,地方都市における中心商店街の空洞化であった.近年の大会シンポジウムのテーマは,明らかにこのような社会情勢と研究上の関心のシフトに狙いを定めたものである.2000年の「ITの空間的意義」における3つの報告では,それぞれ産業空間と都市空間,生活空間に焦点を当てていた.これまでのテーマでは,産業変動や立地を中心とする傾向が強く,生活空間の分野はあまり重視されてこなかった.家族やジェンダー,ロカリティなどは,日本だけではなく,国際的に見ても社会経済地理学において関心が高まっている.経済地理学者も,経済,社会,政治,文化の各領域やその相互作用に対してより幅の広い視点を持っていくことが必要であろう.
- 2003-03-31
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