産業空洞化か,グローバル化か? : 1990年代における日本工業のリストラクチャリングと空間システムの変貌(<英文特集>1990年代における日本の経済的地域構造の変貌)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
日本工業は1980年代までの競争優位を誇った時期から,1990年代には国内におけるバブル崩壊,国際的な円高や中国を始めとしたアジア諸国との競争の激化によって大きな変容を迫られた.この10年間を通じて工場数と雇用は減少を続けたが,出荷額と輪出額においては増減を示している.衣服など低付加価値部門における衰退は著しいものの,機械工業などでは新製品の開発や市場開拓,より生産性の高い技術や工程の導入によって競争力を維持しようと努力している.日本の産業組織の特徴であった企業間での横並び的な競争関係から,各企業における優位なコア部門への集中と劣位部門からの撤退,そしてグローバル化した日本企業の中における国内工業のより高度化した機能へのシフトが進められている.その空間的な帰結は,大都市圏の旧式工場や地方圏における不採算部門の双方からの撤退と,大都市周辺部や地方圏残存工場の高度化という,個別企業からみても地域的にも不均等なものとなっている.日本の中央に位置する岐阜県の工業を事例としてみると,繊維,衣服,陶磁器,刃物などの地場産業は,円高と不況の中で大きく工場数や雇用,輸出を減じている.他方では中堅企業はグローバル化に対応しつつ,独自製品の開発や市場開発,生産工程の改善などに取り組んでいる.さらに空間的な取引関係も広域化,国際化が進んでおり,狭域的な産業集積においては量的な規模的な縮小とその機能の低下と内部での企業の二極分化が生じている.アジア諸国への進出は,従来の系列取引を越えたビジネスチャンスとなっており,それが国内の事業にも反響をもたらしている.こうしたことからも,企業のグローバル化と地域経済の産業空洞化を単純な二律背反の関係と見ることはできない.既存の日本の経済地理学では,国内における市場分割型立地や,空間的な階層的分業関係が明らかにされてきた.しかし,最近のリストラクチャリングを通じて,企業間での合併・再編を通じた立地システムの合理化や工場閉鎖が進んでいる.さらに,グローバルな立地戦略の中での日本工業のプラットフォームの浮き上がりと,その中での個別戦略に応じた工場立地のダイナミズムが生じている結果,大都市圏と地方圏の空間的階層関係も,よりゆるやかでまだら模様の状態へと変化している.日本の産業立地政策も,大都市圏から地方圏への分散促進策から,グローバル競争の下での効率性重視と,大都市への再集中の容認へと転換した.産業クラスターなどの新たな集積政策が提示されているが,それ自体は上記のような企業行動と産業集積の変容の中では限界があると考えられる.国家レベルの産業政策の役割が経済のグローバル化の中で低下した一方で,地域レベルにおいては企業向の連携や,大学,自治体との協力関係を促すものへと代わっている.また地域政策自体も,従来の産業優先から,地域づくりを通じた社会的セーフティネットの整備や,環境保全などの枠組みを重視したものに変えていくことが必要であろう.
- 2003-05-31
著者
関連論文
- 討議の概要と座長所見([フロンティアセッション1]企業城下町の進化過程に関する経済地理学的研究,経済地理学会第56回(2009年度)大会,地域政策の分岐点-21世紀の地域政策のあり方をめぐって-)
- 経済地理学会における最近の研究動向と学会活動:1997-2001
- 産業空洞化か,グローバル化か? : 1990年代における日本工業のリストラクチャリングと空間システムの変貌(1990年代における日本の経済的地域構造の変貌)
- グローバリゼーションと産業集積の理論
- 討論の概要とオーガナイザー所見([ラウンドテーブル1]世界経済危機と国内生産体制の縮小,及び雇用問題,経済地理学会第56回(2009年度)大会,地域政策の分岐点-21世紀の地域政策のあり方をめぐって-)
- ラウンドテーブル 世界経済危機と国内生産体制の縮小,及び雇用問題 (大会記事 経済地理学会第56回(2009年度)大会)
- 工場データベースによる立地分析 :全国から都市圏レベルまでの工場分布の変化
- ラウンドテーブル 経済地理学のテキストと教育 (特集 コンビナート地域の再編と産業創出) -- (経済地理学会第51回(2004年度)大会記事)
- 岐阜市における商店街とまちづくり : 柳ヶ瀬の衰退から,仲間型のネットワークへ(10月例会,北東支部)
- 松原宏著, 『経済地理学:立地・地域・都市の理論』, 東京大学出版会, 2006年, 332頁, 5,040円
- 討論の概要とオーガナイザーの所見([ラウンドテーブル]「経済地理学のテキストと教育」, 経済地理学会第51回(2004年度)大会)
- 趣旨説明([ラウンドテーブル]「経済地理学のテキストと教育」, 経済地理学会第51回(2004年度)大会)
- 市街地活性化とぎふまちづくりセンター(2月例会)(中部支部)
- 日本の労働市場の変貌と地域経済 : 労働と地域の地理学(日本経済のリストラクチャリングと雇用の地理)
- 産業集積研究の展望と課題
- 地域政策の転換期における広域圏のあり方 : 経済地理学会中部支部・関西支部合同例会
- 巡検
- 工業生産活動の地理情報システム化の試み
- The Spatial Organization of Japanese Manufacturing Industry after the Oil Crisis
- 石油化学工業における構造不況後の再編とコンビナートの立地変動
- 工業・都市の変容からみた都市用水と水資源開発--木曽川水系を事例として (特集 水資源・環境政策と地域社会)
- 工業・都市の変容からみた都市用水と水資源開発 : 木曽川水系を事例として(水資源・環境政策と地域社会)
- 戦後日本のアルミニウム製錬工業の立地変動と地域開発政策
- 伊藤修一・有馬貴之・駒木伸比古・林琢也・鈴木晃志郎編, 『役に立つ地理学』, 古今書院, 2012年, ii+162頁, 2,600円(税別)
- エネルギー資源論([ラウンドテーブル]現代日本の資源問題を考える,経済地理学会第59回(2012年度)大会)
- コメント2([大会シンポジウム]地域問題と地域振興の課題と方法,経済地理学会第59回(2012年度)大会)
- 岐阜市中心市街地における「活性化計画」と、スローなまちづくり(12月例会,中部支部,例会記録(2012年10月〜12月))
- 討論の概要と座長の所見([大会シンポジウム]経済地理学の本質を考える,経済地理学会第60回(2013年度)記念大会)