長期継代培養サスペンションに由来するオオムギプロトプラストからの稔性植物体の再分化
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概要
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オオムギプロトプラストからの稔性植物体の再分化についてこれまで2つの報告がなされているが,再分化率の低さや稔性の低さが問題となっていた.我々は,これらの問題点を改善することを目的として,オオムギ未熟胚由来カルスからエンブリオジェニックなサスペンションを誘導後,確立された細胞系からプロトプラストの単離,培養を行い,植物体の再分化を試みた.その結果,得られたプロトプラストが高い再分化能を有している事,また長期継代培養されたサスペンションに由来するプロトプラストにおいても,再分化能の低下がみられない事が確認された.また得られた幼植物体を体上げしたところ順調な生育をみせ,過去の報告例を上回る数の稔性植物体を得る事ができた. 温室および人工気象庫(12±2℃,16時間日長)の2つの異なる栽培条件で育成されたオオムギ品種Igriの未熟胚からカルスを誘導し,2mg/l2,4-Dと30g/lショ糖を含む修正AA培地を用いてサスペンションを作出した.その結果安定的で高い増殖能を持った9つの細胞系を得ることが出来たので,各々の細胞系からプロトプラストを単離,培養した(Table1).プロトプラストの分裂率は,0.6-8.0%であった.得られたコロニーから再分化を試みた結果,人工気象庫で育成された植物体の未熟胚に由来するサスペンションでは,2つの細胞系(cell line CA2,cell line CA3)で緑色シュートの分化がみられ,cell line CA3では106プロトプラストあたり27の緑色シュートの分化がみられた.温室で育成された植物体の未熟胚に由来するサスペンションでは,1つの細胞系(cell line HA5)で低頻度の緑色シュートの分化がみられただけであった.この事より,オオムギプロトプラストからの植物体再分化における材料植物体の栽培条件の重要性が示唆された.得られたこれらのシュートはホルモンフリー培地で発根させた後鉢上げし,2ヵ月の低温処理を行った.現在,cell line CA3のプロトプラストに由来する体上げ個体の全てで稔性が確認されている.また,この。cell line CA3について,プロトプラストからの再分化能を継時的に調べたところ,カルス誘導後23ヵ月でも106プロトプラストあたりの緑色シュート分化数が(55と高い再分化能力を有している事がわかった(Table2).これらの事から,本実験の培養条件下における長期問のオオムギサスペンション細胞の再分化能力の維持およびプロトプラストからの高頻度の植物体再分化が可能であることが明らかになった.
- 日本育種学会の論文
- 1994-06-01
著者
-
木原 誠
サッポロビール植工研
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Kihara M
Plant Bioengineering Research Laboratories Sapporo Breweries Ltd.
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船附 秀行
サッポロビール(株)植物工学研究所:(現)北海道農業試験場
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Funatsuki Hideyuki
Plant Bioengineering Research Laboratories Sapporo Breweries Ltd.
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木原 誠
サッポロビール(株)バイオ研究開発部麦育種開発センター
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