雑種小麦育成に関する基礎研究: VII.実用パン小麦品種の雄性不稔系統の特性
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概要
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先に,Tsunewakiら(1976)は日本および米国で育成された実用パン小麦品種に,チモフェービ小麦の細胞質を導入し,それらの雄性不稔系統を育成した。今回は,これらの系統を用いて,パン小麦の農業形質に及.ぼすチモフェービ細胞質の遺伝的影響を調査した。材料としては18日本品種および11米国品種の正常系統とチモフェービ細胞質をもつ細胞質置換系統を用い,4回反覆のスプリット・プロットよりなる実験圃場に栽培し,出穂日・草丈・穂数・止葉長および自殖ならびに放任種子稔性を調査した。これらの形質はすべてチモフェービ細胞質の影響を受けた。しかし,この細胞質に対する反応は,分析した5形質のすべてについて,日本品種群と米国品種群の間に1%水準で有意な差異を示した。すなわち,チモフェービ細胞質は,日本品種に対しては平均して,出穂日を1.3日早め,草丈を1.1cm高め,穂数を4.7多くし,止葉を1.2cm長くしたが,米国品種に対しては,出穂日を0.9日遅くし,草丈を4.7cm低くし,穂数を0.4減じ,止葉を0.1cm短くした。種子稔性は両品種群とも著しく低下した。次いで,形質間の相互関係に及ぼすチモフェービ細胞質の影響を分析した。両種子稔性を除く4形質間の相関を正常系統と細胞質置換系統のそれぞれについて分析したところ,出穂日と草丈,出穂日と穂数の間に5%水準で有意な相関関係の差異が認められた。同様なことは,また,形質間の共分散分析によっても証明された。すなわち,出穂日と止葉長,出穂日と穂数,草丈と穂数,草丈と止葉長の間の回帰係数は細胞質と核(品種)で著しく異なった。これらのことから,チモフェービ細胞質は少なくとも一部の形質の相互関係に有意な変化を与えることが判明した。最後に,形質発現の安定性に対するチモフェービ細胞質の影響を知るために,正常系統と細胞質置換系統のそれぞれにおいて,個々の形質の個体間変異を調査し,両者の分散比を求めた。その結果,調査した4形質のうち,草丈と穂数において,細胞質置換系統が正常系統よりも,1%水準で有意な,大きな個体間変異を示すことがわかった。これは,主として,新しい核と細胞質の組合せによって誘発された発育不安定性によるものと考えられる。
- 日本育種学会の論文
- 1976-09-01
著者
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