多価陽イオンによる細胞分裂阻害とガンマ線照射による前期染色体の退行現象

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オオムギの発芽種子に780Rの比較的低線量のガンマ線を照射すると,第1葉の生長が阻害され,その主因は第1葉の部間分裂組織の細胞が細胞周期の進行をG_2期で一時的に停止するためと考えられた。この停止はS期の照射によってもおこった.S期の細胞核ではDNAの複製のほかに核蛋白質の合成も行なわれているが,DNAの複製や蛋白質の合成は低線量のガンマ線照射によって阻害されなかった。一方,S期にactinomycinDの処理をすると細胞分裂の頻度が著しく少なくなったので,DNAの複製とともに,細胞分裂進行に必要な,ある種のメッセンジャーRNAが合成されていると推察された。このことが正しければ,S期にRNase処理をすれば細胞分裂は抑制される筈である。このことが,まず,検討された。オオムギ種子の粒を2mlの蒸溜水を含むペトリ皿に入れ,25℃で発芽させた。14時間目に発芽種子をとり出し,5mMのTris-HCl緩衝液(PH7.0)に溶かした,いろいろな濃度のRNase液を2mlずつ入れたガラス管の中で浸した。1時間ののちに,その溶液とともに新しいペトリ皿へ移して発芽をつづけさせた。種子浸漬後22時間目に胚を固定した。無処理区の場合には,RNaseを含まない緩衝液のみで同様な操作を行なった。固定した試料はホイルゲソ染色ののち第1葉を押しつぶしてプレパラートを作製し,その部間分裂組織で細胞分裂頻度を調査した。細胞分裂指数はRNaseの濃度の増加とともに減少した(Fig.1).しかし,RNaseにはRNAを分解する酵素としての作用のほかに,多価陽イオンとしての作用もあるので,後者が細胞分裂の抑制に関与しているかもしれない。このことが,各種の多価陽イオン,lysozyme, poly-L-lysine, hexadecyl trimethyl ammonium bromideやcalf thymus histoneを用いて検計された。その結果,RNase処理の場合と同じく,これらの多価陽イオンは細胞分裂を抑制した(Figs.1〜3)。
日本育種学会の論文
1975-02-28

多価陽イオンによる細胞分裂阻害とガンマ線照射による前期染色体の退行現象

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