生化学部門
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概要
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老人病研究所生化学部門(大学院細胞生物学分野)研究室の目標を一言で言えば, 「細胞の中から病気や老化の原因を探る」であり, 細胞生物学を基本にして医学への貢献をめざしている。「生命の基本原理を知ることによって, 病気の原因がわかり治療法や予防法がわかる。逆に, 病気を見ることによって, 生命の基本原理がみえてくる。」が端的に表現した文である。今年度は, 10年来の課題であったミトコンドリア脳筋症への治療法の開発におおきな発展があった。これは, 分子レベルの基礎研究を基盤に培養細胞を用いて治療法の開発をめざした結果であり, 基礎研究と社会的要請を結び付けて研究をすすめるという方向への研究が実現しそうである。現在進行中の主な研究テーマは, (1)ミトコンドリア脳筋症の分子機構と治療法の開発, (2)細胞死抑制蛋白を用いたプロテインテラピー, (3)脳神経変性疾患におけるミトコンドリアの役割, (4)ミトコンドリアと核のクロストークの分子機構, である。本年度もすべての研究テーマで大きな進展が見られたのは, 研究室員の努力の賜物である。残念ながら発表論文は多くはなかったが, 内容的にはもう少しでレベルの高い論文になりかけているので, 来年度は多く論文を発表できる見通しなので悲観はしていない。とくに目立った研究成果は以下のようである。(1)ミトコンドリア脳筋症;昨年までに, ミトコンドリア脳筋症MELASとMERRFを引き起こすミトコンドリアtRNA遺伝子変異によって変異tRNAのアンチコドンのタウリンの塩基修飾が失われることを発見し, そのアンチコドンのタウリンが欠損することにより変異tRNAはmRNAと結合できなくなることを発見した。この結果を基にタウリンの役割が明確になり, タウリンがミトコンドリア脳筋症のMELAS, MERRF患者由来の培養細胞のミトコンドリアの機能を改善することを発見した。タウリンは副作用が少ないことが知られており, 来年度から治験にはいり効果があるかどうかを調べる段階にはいれそうである。分子レベルの基礎研究が治療へ直接つながることを期待したい。(2)蛋白テラピー;細胞死を制御する遺伝子群にBcl-2ファミリー蛋白がある。昨年までに, アポトーシスを抑制する因子Bcl-xの遺伝子を改変し, 強力にアポトーシスを抑制する因子, Bcl-xFNKを作成し, Bcl-xFNK蛋白を細胞内に導入する系を作り出し, 実際にマウスの肝臓障害や, 軟骨細胞培養に適用した。放射線障害や脳虚血のよる神経細胞死の抑制に効果があることが判明したので, 蛋白治療の実現化へ大きく前進した。(3)神経変性疾患;アルツハイマー病の原因解析には, 昨年に引き続きミトコンドリアのクエン酸回路の酵素dihydrolipoamide succinyltransferase (DLST)とアルデヒドを酸化する酵素ALDH2の解析を中心に行った。DLST遺伝子には本来のDLST mRNAの他にイントロン7から転写開始するmRNAがあり, これをsDLSTと呼ぶことにした。このsDLSTは酸化ストレス耐性の役割をしていることを明確にし, アルツハイマー病とsDLSTを結び付けることができた。昨年までに, アルデヒドを酸化する酵素のALDH2遺伝子の変異がアルツハイマー病のリスクであることを明確にした。さらに, アルツハイマー病のリスクとして確立しているAPOE-ε4と相乗効果を示し, アルツハイマー病発症の頻度を高くし, さらに発症時期をはやめることを発見した。今年度は, 培養細胞, マウスをもちいて研究をすすめ, ALDH2欠損は酸化ストレスの防御機構の低下をもたらすことを明らかにした。(4)昨年までにミトコンドリアDNAの変異によって増加する新規遺伝子のクローニングに成功した。この因子はミトコンドリアの増加を促す因子であることを明確にすることができた。この研究結果により, ミトコンドリアの増加機構解明への糸口が見いだされた。本年度は, 国立精神・神経センター武蔵病院の埜中征哉院長を会長とした「日本ミトコンドリア研究会」を発足させ, 太田成男が学術会長として老人病研究所で第一回の年会を開催した。演題数は49で, 参加者は200人と大盛況であり, ミトコンドリア研究の発展に大いに寄与した。また, 本年度は日本医科大学大学院医学研究科に加齢科学専攻系を新設させるべき, 努力した。その結果, 文部科学省により認可され, 来年度から, 本研究室も日本医科大学大学院医学研究科加齢科学専攻細胞生物学分野として再出発することになり, 今後の発展が期待される。
- 2002-03-25
著者
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