生化学部門
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概要
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老人病研究所生化学部門(大学院細胞生物学学科目)研究室は, 長期的には分子レベルで老化現象を解明し, 老年病の原因とそれに対する対策を解明し, 社会的要請に応えるのが研究目標である。今年度は, 社会的要請に応えうる研究成果があがり, 基礎研究と社会的要請を結び付けて研究をすすめるという方向に研究が進展していることを示すことができた。研究テーマは, (1)細胞死抑制蛋白を用いたプロテインセラピー(2)脳神経変性疾患におけるミトコンドリアの役割(3)ミトコンドリア病の分子機構と治療法の開発(4)ミトコンドリアと核のクロストークの分子機構, である。いづれのテーマもミトコンドリア機能を重視しながら研究を進めているところに特徴があり, それぞれのテーマの接点である。本年度もすべての研究テーマで大きな進展が見られたのは, 研究室員の努力の賜物である。とくに目立った研究成果は以下のようである。(1)細胞死を制御する遺伝子群にBcl-2ファミリー蛋白がある。アポトーシスを抑制する因子Bcl-xの遺伝子を改変し, 強力にアポトーシスを抑制する因子, Bcl-xFNKを作成し, その適用範囲が広範であることを明らかにした。さらに, Bcl-xFNK蛋白を細胞内に導入する系を作り出し, 実際にマウスの肝臓障害や, 軟骨細胞培養に適用した。この改変蛋白は, 今後, 様々な疾患において適用可能であることが予想され, 細胞死の分子機構解明から実際の応用への道を切り開いた。(2)アルツハイマー病の原因解析には昨年に引き続きミトコンドリアのクエン酸回路の酵素dihydrolipoamide succinyltransferase (DLST)とアルデヒドを酸化する酵素ALDH2の遺伝子の解析を中心に行われた。DLST遺伝子には本来のDLST mRNAのほかにイントロン7から転写開始するmRNAがあり, これをsDLSTと呼ぶことにした。このsDLSTは酸化ストレス耐性の役割をしており, 酸化ストレスによって増加することが明らかにされた。sDLSTはアルツハイマー病大脳皮質ではほとんど発現しておらず, アルツハイマー病とsDLSTを結び付けることができた。アルデヒドを酸化する酵素のALDH2遺伝子の変異がアルツハイマー病のリスクであることを明確にした。さらに, アルツハイマー病のリスクとして確立しているAPOE4と相乗効果を示し, アルツハイマー病発症の頻度を高くし, さらに発症時期をはやめることを発見した。この研究成果はマスコミに大きくとりあげられ, 朝日新聞の朝刊一面をはじめとして, 毎日新聞, 読売新聞, 日本経済新聞, そのほか, 地方紙にもとりあげられ, テレビ朝日の夕方のニュース報道などで取り上げられた。さらに, 培養細胞, マウスをもちいて研究をすすめ, そのALDH2の役割を明らかにしつつある。(3)昨年までに, ミトコンドリア脳筋症MELASとMERRFを引き起こすミトコンドリアtRNA遺伝子変異によって変異tRNAのアンチコドンの塩基修飾が失われることを発見した。これらの発見は, ミトコンドリア脳筋症のtRNA変異がアンチコドンの異常という共通の現象であることを示したもので大変意義のある研究成果である。さらに, そのアンチコドンの修飾塩基の役割を明らかにした。この結果に基づいて, ミトコンドリア病の治療法の開発を進めている。(4)ミトコンドリアDNAの変異によって増加し, ミトコンドリアDNAの複製を増加させる新規遺伝子のクローニングに成功した。この因子のクローニングによって, ミトコンドリアと核のクロストークの分子機構解明の道が開かれた。この研究成果は日経バイオのホームページで, 日本分子生物学会の発表研究として紹介され, 関心の高さを裏付けた。さらに, 太田は一般書として角川書店から「ミトコンドリアと生きる」を出版した。小説家の瀬名秀明氏と共著で, 作家と大学教授の共著であることからも, 注目を浴びている。これは, いままでの最新の研究成果をわかりやすく解説した科学啓発書である。そして, 基礎研究を社会的要請に応えるという目標の実現のひとつである。瀬名氏(本名 鈴木秀明)は今年度秋から本部門の講師(兼任)として, 研究と社会の接点という点から研究指導をうけている。本書は読売新聞をはじめ多くのマスコミで書評にて紹介された。
- 2001-03-25
著者
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