病理部門
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概要
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主要な研究課題である肺胞毛細血管の機能と形態の研究に関しては, laser capture microdissection, laser confocal scanning microscopeとRT-PCRを用いて検討した。当年度の検索手段として原発性肺腺癌組織を用いた。腫瘍細胞が肺胞壁にそって浸潤する過程に肺胞毛細血管内皮細胞がどのような動態を示すかについて, 内皮の増生と免疫組織学的な発現型の変動面から注目した。その理由はこの方法によれば, 本来単一の毛細血管が増生する際にはその反応を見出しやすいこと, また影響を与える因子として癌細胞にほぼ限られる特異性を利用できることで, in vivoで内皮細胞と癌細胞間の相互作用を単純化して推測しやすいためである。その結果, 1)内皮細胞は増生し血管新生が起こり, 2)内皮細胞の免疫学的表現型が肺胞毛細血管型から気管支微小血管型に転換する, そしてその過程においてjuxta-alveolar microvesselの表現型であるmosaic-like patternを経由する事実を明らかにした。この事実は, 肺癌の浸潤した肺胞毛細血管は最終的に気管支動脈の末梢血管型に表現型を転換したことを意味する。従来より原発性肺腺癌においては気管支動脈が腫瘍の栄養血管になるとの推測がありその点では矛盾しない。しかしながら表現型の転換が直ちに流れる血流の起源を示すわけではない。3)電子顕微鏡的にもnon-fenestrated typeからfenestrated typeのいわゆる気管支毛細血管型に変化することが明らかであった。その際, microdissectionした肺胞壁組織でVEGF_<165>とその受容体のKDRが高度に発現する事実をRT-PCR(mRNA)レベルから証明した。Fenestrae formationの誘発もVEGFのsoluble isoformに由来することがわかっておりこれにより血管病変発現の機序が説明できるようになった。その際, 肺胞の毛細血管内皮細胞はthrombomodulin-dominant propertyを喪失しつつvon Willebrand factor産生を促されて血管新生に傾くものと見なせた。正常状態では, 内皮細胞に存在する抗凝固因子thrombomodulinは同内皮細胞の安定化因子として機能しているものと推測できる。さて, thrombomodulinはthrombinの受容体としての機能を持ち一方thrombinの受容体としてはprotease-activated receptor (PAR)も知られている。この受容体PARの活性化の過程でthrombomodulinが何らかの機能的干渉作用をする可能性があり, 現在その点で検索中である。内皮細胞は病変の発現に積極的な作用をしている可能性があり病因論の設定上重要なポイントである。この領域の検索を継続中である。Thrombomodulinの抗凝固作用に関してはよく理解されている。しかしこの因子がthrombinとの関係以外で独自の役割を果たしている可能性が否定できなくなってきた。そこでThrombomodulinの細胞増生に関する機能をantisense oligodeoxynucleotideを用いて検討した結果, 肺腺癌細胞株A549においては, 発現を抑制するとそれに準じて細胞の増生能が低下する事実を明らかにした。今後thrombin vs PARの作用にthrombomodulinがどのように関与するかについて検索する予定である。従来より肺組織の形態学的特長の一つにII型肺胞上皮細胞のサーファクタント産生がよく知られている。しかしながらこのリン脂質の代謝機構についてはほとんど知られていない。秋田大学グループとの共同研究により, リン脂質代謝にATP-binding cassette A3 (ABC-A3)がlamellar bodyの限界膜に存在する事実を見出すことが出来た。その際サーファクタントタンパク(SP-A)がむしろ別個の経路で産生, 分泌されlamellar bodyに出現する量には限度がある事実も明らかにすることが出来た。遺伝子レベルの分析であるComparative genomic hybridization (CGH)法により, 胃癌(印鑑細胞癌)が主として第6番染色体短腕に特異的欠損を示す事実を報告した。また制癌剤ビンデシン(食道癌細胞株)や, 卵巣癌に対するシスプラチン耐性獲得に関与する染色体領域を見出すことが出来た。同様な方法で肺癌細胞株における特徴的な増幅, 欠損領域の特定を進めつつある。
- 日本医科大学の論文
- 2002-03-25
著者
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