利益平準化手段と時価評価導入効果の実証分析
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概要
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金融商品に対する時価評価の導入は、企業の会計政策に大きな変革をもたらすと思われる。本稿の目的は、上場企業297社の20年間の財務データを統計解析することで利益平準化の会計政策の実態を明らかにし、金融商品に対する時価評価の導入が、この利益平準化会計政策にどのような影響を与えるかを考察することである。経営者は営業利益以降の資産売却損益によって利益を平準化しているとの仮説を検証した結果、資産の含み損益による利益平準化の存在を証明できた。利益平準化手段と考えられる会計政策を、第1グループ(有価証券売却損益・有価証券評価損)、第2グループ(投資有価証券売却損益・投資有価証券評価損・固定資産売却損益)、第3グループ(営業外損益の雑損益)に分けて分析を行った結果、すべてのグループが利益平準化に用いられていることが分かった。またサンプルを、利益拡大政策が行われると考えられるものと、利益縮小政策が行われると考えられるものとに分けて偏相関分析を行った。その結果、第1グループは主に拡大方向の利益平準化に用いられていること、第3グループは縮小方向の利益平準化において非常に重要な役割を果たしていることが分かった。更に、会計政策の各グループ間に非常に高いレベルで有意に負の相関が存在することから、各グループが利益平準化に対して補完関係にあることを証明できた。これにより多くの経営者が、税引前当期純利益が他社に横並び的に推移するよう望んでいることを裏付けることができた。分析結果より、今回の時価評価の導入によって、有価証券の含み損益を利用した利益操作を抑制する効果が期待できる。しかし、多くの経営者が税引前当期純利益を利益平準化の対象としていることから、利益平準化を抑止し会計情報の意思決定有用性を担保するためには、時価評価の対象を更に拡張する必要性のあることを指摘した。
- 摂南大学の論文
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