制度派経済学としての医療経済学 : ガルブレイスの依存効果と医師誘発需要仮説の類似性
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概要
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経済学のなかで,消費者需要の神聖不可侵性は,先験的公準-論理体系の基本的な前提として措定せざるを得ない証明不可能な先験的な命題-として取り扱われる。ところが,この消費者需要の神聖不可侵性という経済学上の約束事に対して,ガルブレイスは『ゆたかな社会』のなかで異議を唱えた。この本のなかで彼は,消費者の欲求は,自立的に決定されるものではなく,依存効果によって創られるもの-すなわち,生産の過程で,生産者による宣伝や消費者相互間の見栄の張り合いに依存して創られるもの-という論点を用いた。そしてガルブレイスは,依存効果が支配的な"ゆたかな社会"では,資源が不釣合いに私的部門に投入され,公的部門への資源配分がおろそかにされるという,社会的アンバランスの問題が生じることを指摘した。この論法は,情報が医療供給者に偏在し,消費者の需要という考え方が,果たしてこの市場にあてはまるのであろうかと考えられている,医療サービス市場の資源配分問題を論じる視点として役に立つ。本稿では,医療サービス市場の社会経済特性を,経済学のなかの一派,制度派経済学の視点から検討するとともに,代表的な制度派経済学者であるガルブレイスのいう"ゆたかな社会"と医療サービス市場の類似性を考察する。なお,本稿において"望ましい政策"という際の価値判断の規準は,マキャベリの『君主論』を真似る。具体的には,社会の統治者が権力を維持することができる政策を,"望ましい政策"として考察を進めていく。この分析視角は,民衆の-特に民主主義のもとでは有権者の-賢さ,愚かしさ次第で,"望ましい政策"が変化するという特徴を持つことになる。最後に,本稿で考察した"制度派経済学としての医療経済学"という医療経済研究における新たな視点から,日本では,医療技術の開発,および開発された技術の導入を,いかに行なうべきかについて,若干の考察を行なう。
- 2000-10-25
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