総合型地域開発と統合型地域開発 : 南アフリカと北海道の比較研究
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概要
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本稿は,筆者がコースリーダーを務めた2001年度「南アフリカ地域開発行政セミナー」研修(北海道開発局受入)の成果の一部である。これは国際協力事業団北海道国際センター札幌において1995年度より実施されている政府開発援助(ODA)の中の技術協力に含まれる研修事業の一つとなっている。この研修の重要な目的は,国家が地域の開発計画を作成する北海道開発の制度を理解することにより,南アフリカ共和国(以下南アフリカと略す)の地域開発における中央政府の役割を検討することにある。南アフリカ共和国では,人種隔離政策(アパルトヘイト)解体により民主化への道を歩み始めたが,失業率や識字率といった社会的指標において地域間の格差が拡大している。今日,同国ではこれまで個別に行われてきたあらゆる分野の地域開発を,民主化と貧困問題の同時解決の方向へと統合することが重視されている。これは,「統合型地域開発(Integrated Regional Development : 以下IRDと略す)」アプローチといわれている。このIRDのもとでは,あらゆる分野の地域開発計画が「非対称性(asymmetry)」をもつことなく,民主化と貧困の除去のために「同調化(synchronization)」することが重視されている。一方,北海道の地域開発は,北海道開発庁という国の行政機関が策定する総合開発計画に基づいて行われてきた。その意味では,北海道開発は「総合型地域開発(Comprehensive Regional Development : 以下CRDと略す)」アプローチである。CRDは,日本の経済発展の各段階における重要課題,例えば高度成長,内需拡大,環境保全に関する計画を包括するようになり,肥大化を続けてきた。大規模インフラ整備プロジェクトを中心とする北海道開発は,ローゼンスタイン・ロダンが唱えた「ビッグ・プッシュ」戦略を思い起こさせる。これは,国家が大規模なインフラ開発を主導することにより新産業発達の契機が生まれるという「外部経済効果(external economics)」を期待するものである。しかし,現実には,北海道の総合開発計画のもとで実施された公共事業が生み出す経済誘発効果と新規雇用の約6割は建設業にもたらされる。本稿はこれを「ゆがんだビッグ・プッシュ(distorted big-push)」と呼ぶ。本稿は,このような南アフリカが目指す地域開発アプローチと北海道の地域開発アプローチの違いに着目し,両者の地域開発アプローチを比較することにより,地域開発の初期条件の違いが地域開発の方向性において重要である点を強調する。
- 北海道東海大学の論文
著者
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