圃場整備における田園居住空間創出の事例的研究
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概要
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現在、大区画圃場整備事業を進めている今在家地区は、島根県斐川町の北西部に位置し、一級河川斐伊川に接した農村地域である(Fig.1)。当地区は、古くから農業的、社会的につながりの強い4集落からなる125haの区域である。斐川町の基幹産業は農業であるが、近年農業を取り巻く情勢は過疎化、高齢化の進行、農産物価格の低迷、後継者不足や自由化の進展等大きな構造変化を強いられている。こうした情勢の中で、出雲圏の中核都市である出雲市、平田市に近い周辺地域では農地のスプロール的漬廃化が進んでいる。しかし、本地域ではこれまで地域のまとまりにより農地のスプロール化を防いできた。これには、本地区は全域が農業振興地域に指定されており、都市計画区域ならびに用途地域の対象外となっていることも特徴的な条件としてあげられる。しかし、単に農地のスプロール的漬廃を免れるだけでなく、将来に向かった積極的な対応の必要性が認識されていた。すなわち、農業・農村の構造的変化を見通した計画的な生産環境整備の推進と農地と居住区域を共存させた快適な農村の住環境整備が本地区の発展において必須の条件であると位置づけられ、そのための農村活性化住環境整備事業の実施が強く望まれるようになったのである。事業の実施を目指して本地区では、平成元年より平成3年まで「農村地域における整備技術調査」を行い、その調査の中で農村社会の活性化・秩序ある農村環境整備のあり方が検討された。調査提案を受けて、平成4年度から高生産性大区画圃場整備事業、平成5年度から農業集落排水事業をそれぞれ実施してきた。事業の中で農業振興策に関しては以下のような方針が立てられている。本地域の農業は、水稲が主であるが転作作物としての麦・大豆・飼料作物が栽培されており、農家はほとんどが二種兼業農家である。本地区では従来の二種兼業農家による個別農業経営が限界に達している事実への反省から、将来は、集落全体で営農に取り組む「集落一農場」方式による組織経営体を作り、1.2ha~2.7haの大区画を確保し作業時間の短縮と大規模経営による徹底した低コスト営農を目指し、農業農家経営の改善を図っていくとしている。すなわち高生産性大区画圃場整備事業により大区画圃場を造成して生産基盤の整備を進めるとともに、営農組織としては営農組合方式で大規模化による低コスト化した質の高い農業経営の実現を目指している。また、農村景観整備の観点から、ゆとりとうるおいのある農村環境を形成するために、斐川平野の特有の築地松の景観保全を行い、あわせて良好な田園景観と調和する農村公園の整備を行い、農村の住民がふれあい交流のできる緑地空間の整備を図る。さらに、農業の伝承の場となる施設整備を行って斐川町農業を町内外にアピールしょうとするものである。斐川町では活性化の基本施策として進めてきた企業誘致による雇用の場が創設され、近年人口も増加の傾向にある。快適で衛生的な農村の生活環境の創出と農業用水の水質保全のため、農業集落排水事業の実施が望まれている。また、定住化推進のための住宅地整備が急務となり、良好な田園景観と調和する人と人とのふれあいを感じるような魅力ある安全で快適な田園居住空間を本地区に創設することも事業に盛り込まれている。本事業は21世紀に向けての都市近郊における農業農村整備のあり方を示すモデル地区と位置づけることができる。本論文は3ケ年にわたる農村地域における整備技術調査およびその後の追跡調査結果について論究したものであり、今後の農村整備事業のあり方の指針になり得ると考え、事例的研究として報告するものである。Recently,the environmental situation of rural area has been being degrated.The farm land in Hikawa Town in Shimane prefecture has been sprawled because this area is located between Izumo City and Matsue City.A land Consolidation project conducted by Hikawa Town has a striking feature opposed to this situation.It respects the environment of agricultural production and the inhabitants'lives as well as landscape of the rural area.An integrated rural improbement plan was adoptde to solve all the problems involved.The results of the field research are summarized as follows:(1)To prevent the land sprawl,a large-sized land consolidation plan was adopted and the agricultural infrastructure was strengthened.(2)According to future estimated population decrease,a new settlement stabilization plan was adopted to accept both successors and newly arriving farmers who return from cities.In addition,the project aims to improve the amanity of the rural settlement and rural landscape by consolidation of parks and so on.(3)To debelop employment chances for stable inhabitants,an industrial area was allocated and industrial companies have been invited.(4)Important future issues to be solved are considered to be mainly concerning farming programs.These are adoptation of converted crops such as wheat and soy bean combined with rice as a main crop,the methodology of fertilizers,pesticides and herbicides,the introduction of new crops and highly-valued crops by taking advantage of reduced farming labor time,the establishment of a direct seeding method for rice,the fostering and stabilizing of farming associations,the training of agricultural machinery operators,and the stabilization and strengthening of the farming association's infrastructure.
- 岡山大学の論文
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