<学位論文>転換畑・施設畑における潅漑管理と用水量の検討
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概要
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わが国では,1970年代以降,水田転換畑が急増しか。そして,露地栽培の転換畑では,土壌条件や水利条件が普通畑とは異なるため,潅漑にはこれまでの技術では対応できない特有の問題が生じている。まず第1が,水田時の耕盤が残る転換畑では,有効土層,土壌水分の消費,潅水開始時利か,普通畑とは異なるという問題である。第2は,水田用水を利用して,一時あるいは常時,畦間に潅水する方式で潅漑されているが,この畦間潅漑の方式によって,転換畑の水利用が異なるという問題である。本研究では,これらの問題の実態を調査によって明らかにした。また,施設畑では,施設の大型化と潅水の装置化が進んでいる。しかし,栽培が施設畑に限られる作物には,作型ことに生育ステージの推移が異なるものや,ステージごとに敏感に水需要が異なるものが多く,そして,それらの収穫は1件つき1回であるから,細心の潅水管理を必要とする。しかも,その技術については,研究例が少なく,利用できる既往の枝術も限られているため,潅水管理は耕作者の経験と勘で行われることが多い。そこで,篤農家が栽培から得た経験・知識を潅水管理の制御方法に取り込み,潅水装置を有効に機能させる方法が考えられている。そのためには,栽培が施設畑に限られる作物の潅水実態を解明することが必要である。本研究では,作型ごとに生育ステージの推移が異なる作物として電照ギクを,ステージごとに水需要が異なる作物として温室メロンを選定して,定植から収穫までの1回の潅水量,間断日数,土壌水分管理の実態を明らかにした。以上のことについて,結果を要約すると,転換畑については,(1)有効土層深は,耕盤を残している転換畑では浅く,耕盤を破砕した転換畑では前者よりも深い。(2)耕盤を残している転換畑では,破砕した転換畑よりも高水分で潅水を始めている。(3)乾燥時に一時的に畦間湛水させて,作物に水分を供給した後,残水を落水する方法は,排水性,通気性を必要とする作物に適用される。1回の潅水量は多い。間断日数は乾燥状況に左右されて一定しない。(4)耕盤の湛水機能を利用して,常時畦間に湛水させる方法は,土壌に高水分状態を必要とする作物に適用される。潅漑開始時,湛水を始めるときの水量は多いが,湛水後の1回の潅水量は少ない。間断日数は2〜3日である。作型で水需要が異なる施設畑の電照ギク栽培については,(1)定植栽培では,初期生育までの潅水を,ホース潅水で行い,初期生育後(定植後約30日)からは,自動潅水で行う。二度切り栽培では,自動潅水で行い,補助的にホース潅水を用いる。(2)1回当たり自動潅水量は作型で異なる。春季定植栽培が最も多く,次いで,秋季定植抑制栽培が多い。二度切り栽培は最も少ない。(3)定植栽培における1回の潅水量の最大量は,潅水が自動潅水に切り替えられた直後に生じている。春季,夏季定植栽培では40〜50mm,秋季定植抑制栽培では30mである。(4)間断日数は,定植栽培の場合,初期生育までの約30日間が1〜2日である。それから以降は,生育ステージが移行するにつれて長くなる。しかし,作型間で日数が異なる。二度切り栽培の場合,ジベレリン処理後の日数は長い。また,ステージが移行するつれて,定植栽培と同様,日数は長くなる。(5)定植栽培での土壌水分は,初期生育を終えるまでは高水分で,初期生育後から低水分となって,発蕾すると,さらに低水分となっている。また,二度切り栽培の場合は,栽培開始時から比較的高水分で,発蕾すると低水分で推移している。生育ステージによって水需要が異なる温室メロン栽培については,(1)ホース潅水は定植前の準備時と,定植後は鉢土が乾燥したときに限り,また,まれに自動潅水の補助として行われることもある。1回の潅水量は少量である。(2)自動潅水は活着後から行われる。潅水はステージ特有の潅水と,定常的な潅水とに区分される。定常的な潅水の1回の潅水量は少量であるが,ステージ特有の潅水はそのステージで1度限りであるが,水量が多い。(3)間断日数は,定植直後が2日,活着後から着果期を迎えるまでが20日,着果・初期肥大期は2日というように,生育ステージによって異なっている。(4)土壌水分も生育ステージによって異なっている。土壌水分張力(深さ5cm)の推移を見ると,定植〜活着期は上昇せずに,活着後から次第に上昇して,開花・交配期にはステージ間で最高の張力となる。そして,着果・初期肥大期には下降し,一次ネット発生期には再び上昇すると,二次ネット発生・肥大促進期は下降して,成熟期からは緩やかに上昇している。以上のことから,転換畑では耕盤の存在の有無,畦間潅漑の方式によって,また,施設畑では,栽培が施設畑に限られる作物の場合,作型ごとに,あるいは,生育ステージごとに,1回の潅水量,潅水開始時期,間断日数が異なる。このため,転換畑,施設畑の潅漑には,それらを定常的とする普通畑の潅漑諸元を適用できないことは明らかであり,それら畑の潅水管理に対応した潅漑緒元を定める必要があ
- 石川県農業短期大学の論文
- 1999-12-27
著者
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