<論文>消費者に求められるリーガルマインドの育成 : 「市民意識を育む演習」を通じて
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概要
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市民意識を育む消費者教育が必要とされる中で, まずは消費生活の中に法が存在していることの自覚を, 消費者に促すことが求められる。それは法律の専門家として, 紛争当事者間に生じた法律問題を, 第三者的に整理, 調整するのための法知識や技術を身につけるというものではなく, あくまで日常的な法律行為を自覚し, その行為にまつわる紛争の予防と生じてしまった紛争の早期解決に, 当事者として主体的に関わる能力を身につけるというものである。例えば, 私たち消費者は, 自分の健康を管理するために, 日頃から食品, 薬品, そして運動量に気を配り, 体の不調を感じたり, あるいは病を予防したいと思った時には, 医者などの専門家に相談をする。そのことと同様に, 消費者には, 日頃から自己の法律行為に起因するリスクとベネフィットを管理することが求められ, 自らが当事者となって遭遇した紛争には, 速やかに法律の専門家に相談するなどして, 被害の未然防止と更なる拡大を防ぐ権利と責任がある。そしてその時消費者は, 紛争の現状に関する情報を, 専門家に対して正確に提供しなければならない。そうでなければ, たとえ専門家に相談をしても適切な解決は期待できないであろう。本稿では, 英国のシチズンシップ財団がまとめた「法の理解を促す教師用ガイド」と「若者向け法律ガイド」を参考にしながら, 筆者が独自に考案した「市民意識を育む演習」のあり方を示しつつ, 市民意識を備えた消費者(以下「消費者市民」と称する)に求められるリーガルマインドを育成する方法について考察する。それは, 消費者と事業者の間で結ばれた契約の種類が, 請負契約なのか, 委託契約なのか, といった専門的な解釈ができる人の育成を目的とするものではない。限りある生活資源を安定的に活用したい消費者が, 契約に際して「(1)締結過程に存在する重要ポイントを識別する, (2)生じた権利・義務を自覚する, (3)交渉する, (4)紛争に備える(予防と解決)」といった能力を身につけるとともに, 付随的に, 多様化するであろう法律サービスの受け手としての能力を育むことを目的とする。
- 2001-03-30
著者
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山口 正久
金城学院大学消費生活科学研究所
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山口 正久
金城学院大学・家政学部
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杉浦 君代
金城学院大学・大学院人間生活学研究科博士課程後期課程
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杉浦 君代
金城学院大学大学院人間生活学研究科博士課程後期課程
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