泌尿器領域における創薬 : 塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシン
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
排尿障害の代表的治療薬である塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシンの研究開発を振り返り,いくつかのトピックを紹介する.塩酸タムスロシンは,いわゆる第二世代のα1受容体遮断薬であり,前立腺肥大症に伴う尿排出障害治療薬として1993年に上市された.塩酸タムスロシンは,当初,高血圧治療薬を目指して合成されたが,α1遮断作用が強いわりには降圧作用は弱かった.従って,抗高血圧薬としての開発を断念し,結局,排尿障害治療薬として開発を継続した.その後,受容体クローニング等,α受容体のサブタイプに関する研究が進展し,本剤のα1B受容体に対する親和性は弱く,α1Aおよびα1D受容体に対する選択性が高いことが判明し,尿排出障害治療薬として相応しいプロフィールを有していることが明らかとなった.さらに,標的臓器である下部尿路組織への移行性が高いことにより作用が持続し,加えて,徐放剤として開発することによって起立性低血圧等の副作用発現頻度を低く抑えたことも,成功の要因である.一方,蓄尿障害治療薬としては,比較的古くから抗コリン薬が用いられているが,口渇で代表される副作用の発現により,臨床の場における満足度は必ずしも高くはなかった.抗コリン薬は,主にムスカリンM3受容体を遮断することにより膀胱平滑筋を弛緩させ,蓄尿障害を改善するが,同じくM3受容体を遮断することにより唾液分泌を抑制し,消化管等の平滑筋も弛緩させることから,口渇や便秘を高頻度に発現する.従って,塩酸ソリフェナシンは創薬の初期段階から膀胱選択性の高いM3受容体遮断薬を目指して合成された.その結果,既存の抗コリン薬が膀胱選択性を示さないか,むしろ唾液腺に選択的であったのに対し,本剤は膀胱選択的なプロフィールを有することが判明した.さらに,ヒトにおいては代謝を受けづらいことから血漿中半減期が長く,バイオアベイラビリティも良好であり,優れた薬物動態(PK)プロフィールを有している.以上のように,創薬においては,薬効プロフィールもさることながら,PKプロフィールの重要性が増している.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2005-11-01
著者
関連論文
- 新規骨粗鬆症治療薬ミノドロン酸水和物(リカルボン^【○!R】錠1mg/ボノテオ^【○!R】錠1mg)の薬理学的特性および臨床効果
- 過敏性腸症候群に対する5-HT_3受容体拮抗薬ラモセトロンの効果 : 各種IBSモデルにおける薬効比較
- 新規下痢型過敏性腸症候群治療薬ラモセトロン塩酸塩(イリボー^【○!R】錠)の薬理学的特徴および臨床試験成績
- 新規シクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害薬セレコキシブ(セレコックス^【○!R】錠)の薬理学的特性および臨床試験成績
- YM454を用いた超低音圧ハーモニック-家兎肝多血性腫瘍での検討
- 膀胱選択的ムスカリン受容体拮抗薬コハク酸ソリフェナシン(ベシケア^【○!R】錠)の過活動膀胱に対する改善作用 : 特に尿意切迫感に対する作用
- ラットにおけるMidazolam 皮下持続投与時の鎮静作用
- 新規C型慢性肝炎治療薬インターフェロンアルファコン-1(アドバフェロン【○!R】)の薬理作用と臨床効果
- がん治療ターゲットとしてのサバイビンの可能性とサバイビン発現抑制薬YM155の非臨床研究
- 過敏性腸症候群治療薬の創薬研究
- 超音波造影剤YM454を用いたHarmonic Imagingによる家兎肝VX-2腫瘍での造影効果-血管造影 ・ 病理組織所見との比較検討-
- 超音波造影剤YM454を用いた肝での B-mode 造影効果の解析 : 音圧と造影効果の関連について
- 世界に誇れる日本の創薬と将来
- 新規過活動膀胱治療薬コハク酸ソリフェナシン(ベシケア^【○!R】錠)の薬理学的特性および臨床試験成績
- 麻酔雄性イヌにおける塩酸タムスロシンの尿道内圧上昇抑制作用と血漿中および下部尿路組織内濃度との関連性
- 抗潰瘍薬と抗ピロリ薬の研究開発経緯
- 進化した胃薬 : ガスター(20世紀を代表する創薬)(21世紀:薬学の時代へ)
- がん治療ターゲットとしてのサバイビンの可能性とサバイビン発現抑制薬YM155の非臨床研究
- 泌尿器領域における創薬 : 塩酸タムスロシンおよび塩酸ソリフェナシン
- 過敏性腸症候群治療薬イリボー^【○!R】(ラモセトロン塩酸塩)の創製