AMPA受容体の生理機能 : 受容体機能発現から疾患まで
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
グルタミン酸AMPA受容体は中枢神経系において速い興奮性神経伝達を担う重要なイオンチャネル型受容体である.この受容体は4つのサブユニットからなるテトラマーであり,その構成サブユニットはGluR1〜4までの4種に分類され,さらにそれぞれがスプライシングバリアントを持つ.また,そのサブユニットのうちGluR2では,その第2膜親和性領域(イオンチャネルポアを形成する部分)にRNA編集によるグルタミンからアルギニンへの変換が生じている部位がある(Q/R部位).このアルギニンへの変換を受けた編集型GluR2サブユニットを構成成分に含むAMPA受容体はほとんどカルシウム透過性を持たないが(タイプ1受容体),含まないAMPA受容体は高いカルシウム透過性を示す(タイプ2受容体).受容体形成時には,このサブユニットの会合の段階でGluR2サブユニットを含むAMPA受容体の方が含まないものよりも形成されやすい調節を受けている可能性が示唆されている.また,各サブユニットの細胞内での輸送に関してもサブユニットにより異なる輸送機構が働いている可能性も明らかにされてきている.このようにAMPA受容体形成はサブユニット段階での種々の調節を受けていることが明らかとなってきている.タイプ2受容体がそのカルシウム透過性により神経脆弱性の発現に関与していることは知られているが,筋萎縮性側索硬化症の患者の脊髄運動神経においてはRNA編集が正常には行われず,Q/R部位がグルタミンのままのGluR2サブユニット(非編集型GluR2)が多く存在しており,その結果カルシウム透過型AMPA受容体が多く発現していることが明らかとなった.また,グリア細胞にはタイプ2AMPA受容体が発現しているが,ここに編集型GluR2を強制発現させるとグリア細胞の突起の退縮や神経膠芽腫細胞の増殖抑制などが観察された.このように,AMPA受容体は生体内において通常の興奮性神経伝達だけではなく,特にそのカルシウム透過性により神経機能や病態に深く関わっている可能性がある.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2003-12-01
著者
-
都筑 馨介
群馬大学
-
郭 伸
東京大学医学系研究科神経内科学
-
郭 伸
東京大学大学院 医学系研究科 脳神経医学専攻神経内科学
-
鈴木 岳之
共立薬科大学基礎生物学講座
-
亀山 仁彦
(独)産業技術総合研究所脳神経情報
-
都筑 馨介
群馬大学大学院医学系研究科神経生理
-
鈴木 岳之
共立薬大・薬理
関連論文
- ビックリ病(hyperekplexia):グリシン受容体チャネロパチー (特集 チャネロパチー)
- Emery-Dreifuss症候群に拡張型心筋症と致死性不整脈を合併した一例
- 孤発性ALS患者運動ニューロンに見出された分子病態RNA editing異常に基づいたモデルマウスの開発 (AYUMI ALS Update)
- 神経周膜炎を認めたRelapsing Polychondritisの1例
- モデル教育コア・カリキュラムおよび卒前教育における神経内科の現状に関するアンケート全国調査
- 22B14-3 重症喘息患者におけるテオフィリン徐放性製剤のバイオアベイラビリティの評価
- O-1A-4 ウイルスベクターを用いたグルタミン酸受容体強制発現によるラット学習行動の変化(日本動物心理学会第61回大会発表要旨)
- O-B-3 ラット海馬神経細胞におけるグルタミン酸受容体の強制発現(日本動物心理学会第60回大会発表要旨)
- 各種難病の最新治療情報 経皮的前庭電気ノイズ刺激は有効か?--パーキンソン病、多系統萎縮症に対する検討例の報告
- ALSと興奮性アミノ酸 (特集 ALS--研究と診療の進歩)
- 前庭神経の経皮的微弱ランダム電流刺激による神経疾患の治療の試み
- 電気的前庭神経刺激による神経疾患の治療の試み
- 経皮的電流ノイズによる自律神経機能の改善と治療応用の可能性
- 心拍 (血圧) 変動が中枢性血圧調節に与える影響
- 孔脳症の1症例
- 急性ロシア春夏脳炎例の回復期にみられた不随意運動の解析
- AMPA受容体
- 孤発性ALSの病因 (特集 神経筋疾患の最新研究治療情報)
- 神経・筋疾患
- ALSとAMPA受容体
- 筋萎縮性側索硬化症の分子病理--病態と治療
- 筋萎縮性側索硬化症の研究の進歩 (第1土曜特集 脳科学の先端的研究--遺伝子から高次機能まで) -- (神経の疾患)
- Focus on 筋萎縮性側索硬化症における運動ニューロン死の分子病態
- AMPA受容体の生理機能 : 受容体機能発現から疾患まで
- 単一ニューロンのmRNA解析
- Patch Clamp PCR : 神経細胞受容体のサブユニット構成の解析
- ALSの運動ニューロン死とグルタミン酸受容体の分子変化 (特集 第41回 脳のシンポジウム) -- (運動ニューロン疾患をめぐる最近の進歩)
- ALSの運動ニューロン死とグルタミン酸受容体の分子変化
- 神経変性疾患とグルタミン酸受容体チャネル (特集 イオンチャネルと疾患--基礎と臨床) -- (臨床 イオンチャネル関連疾患とイオンチャネル病)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(20・完)精神・神経疾患(8)催眠薬
- 現代薬学を理解するためのキーワード(19)精神・神経疾患(7)抗不安薬
- 現代薬学を理解するためのキーワード(18)精神・神経疾患(6)非定型抗精神病薬
- 現代薬学を理解するためのキーワード(17)精神・神経疾患(5)アスペルガー症候群,注意欠陥多動障害
- 現代薬学を理解するためのキーワード(16)精神・神経疾患(4)うつ病(2)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(15)精神・神経疾患(3)うつ病(1)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(14)精神・神経疾患(2)心身症
- 現代薬学を理解するためのキーワード(13)精神・神経疾患(1)神経症
- 現代薬学を理解するためのキーワード(12)生活習慣病(7)高脂血症
- 現代薬学を理解するためのキーワード(11)生活習慣病(6)糖尿病の薬物療法
- 現代薬学を理解するためのキーワード(10)生活習慣病(5)糖尿病の非薬物療法
- 現代薬学を理解するためのキーワード(9)生活習慣病(4)インスリン抵抗性と疾患(3)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(8)生活習慣病(3)インスリン抵抗性と疾患(2)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(7)生活習慣病(2)インスリン抵抗性と疾患(1)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(6)生活習慣病(1)メタボリックシンドローム
- 現代薬学を理解するためのキーワード(5)ウイルス性疾患と治療(4)肝炎(2)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(4)ウイルス性疾患と治療(3)肝炎(1)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(3)ウイルス性疾患と治療(2)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
- 現代薬学を理解するためのキーワード(2)ウイルス性疾患と治療(1)
- 現代薬学を理解するためのキーワード(1)分子標的薬剤
- 受容体のキホン(13)ステロイドホルモン受容体(その1)
- 受容体のキホン(16・完)病気,くすりと受容体
- 受容体のキホン(15)ステロイドホルモン受容体(その3)
- 受容体のキホン(14)ステロイドホルモン受容体(その2)
- 受容体のキホン(12)インスリン受容体
- Department of Neurology, The University of Chicago(シカゴ大学神経内科)
- コリン作動性神経研究の今日的展開
- 神経成長因子がアミロイドβ蛋白の神経毒性を増強する
- RNA editing活性低下とTDP-43病理 : 孤発性ALS運動ニューロンにおける疾患特異的両分子異常の分子連関