三酸素同位体組成を指標に用いた大気沈着窒素-森林生態系間相互作用の定量的評価法
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
近年東アジア域を中心に大気中への人為的固定態窒素(NOxなど)の放出量が増大しつつあり, これがもたらすNO^[-]_[3]沈着量の増大が, 森林などの陸上生態系に与える影響について関心が集まっている. 森林生態系は, 大気から沈着するNO^[-]_[3](NO_[3]^[-]_[atm])の多くを光合成(同化)過程において吸収していると一般に考えられているが, 森林生態系は多要素からなる複雑系で不均質性が高い. さらに, 有機体窒素から再生したNO^[-]_[3](NO_[3]^[-]_[re])に関しては放出源として挙動するため, ある森林生態系の局所的観測から, 全体の吸収量を定量化したり, 森林生態系毎の吸収量の差異を評価したりすることは難しい. そこで近年, NO_[3]^[-]_[atm]だけが自然発生源で唯一0以外の値を示し, かつ一般の反応過程おいて値が変化しない, NO^[-]_[3]の三酸素同位体組成(Δ17O値)を利用する方法が提案されている[Michalski et al., 2004b; Tsunogai et al., 2010]. これは森林生態系を経由して流出した地下水中に含まれるNO^[-]_[3]のΔ17O組成が, 大気から沈着したNO^[-]_[3]と森林生態系内で生成したNO^[-]_[3]の混合比を反映していることを利用している. この新手法を用いることで, 森林生態系環境に変化・擾乱を与えず, また手間やコストを大幅に削減しながら, より信頼度の高い見積値の算出を実現出来る可能性がある. 本論文では東アジア域で初めてNO^[-]_[3]のΔ17O組成を指標に用いて, 大気から沈着した窒素と森林生態系の相互作用を評価した研究[Tsunogai et al.,2010]についてレビューし, その有用性を検証する.This paper reviews recent advances in using the 17O anomalies (Δ17O) to trace the fate of atmospheric nitrate that had deposited onto a forest ecosystem, especially for the recent studies by Tsunogai et al.[2010]in which the fate of atmospheric nitrate deposited onto a forest ecosystem have been successfully traced by Δ17O for the first time in East Asia. In the study, the stable isotopic compositions of nitrate in precipitation (wet deposition) and groundwater (spring, lake, and stream water) were determined for the island of Rishiri, Japan, which is a representative background forest ecosystem for East Asia. The deposited nitrate had large 17O anomalies with Δ17O values ranging from +20.8 ‰ to +34.5 ‰ (n=32) with +26.2 ‰ being the annual average. On the other hand, nitrate in groundwater had small Δ17O values ranging from +0.9 ‰ to 3.2 ‰ (n=19), which corresponds to an mixing ratio of atmospheric nitrate to total nitrate of 7.4±2.6 %. Comparing the inflow and outflow of atmospheric nitrate in groundwater within the island, Tsunogai et al.[2010]estimated that the direct drainage accounts for 8.8±4.6% of atmospheric nitrate that has deposited on the island and that the residual portion has undergone biological processing before being exported from the forest ecosystem.大気圏と生物圏の相互利用. 北海道大学低温科学研究所編
著者
-
野口 泉
北海道環境科学研究センター
-
角皆 潤
北海道大学
-
中川 書子
北大・院・理
-
Tsunogai Urumu
Hokkaido University
-
Tsunogai Urumu
Hokkaido Univ. Sapporo Jpn
-
Tsunogai U
Laboratory For Earthquake Chemistry Graduate School Of Science The University Of Tokyo
-
Tsunogai Urumu
Earth And Planetary Sciences Graduate School Of Science Hokkaido University
-
Tsunogai Urumu
Laboratory For Earthquake Chemistry Faculty Of Science University Of Tokyo
-
角 皆潤
北大・理
-
角皆 潤
北海道大学大学院理学研究科地域惑星科学専攻
-
角皆 潤
北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻
-
Tsunogai Urumu
Earth And Planetary System Science Faculty Of Science Hokkaido University
-
野口 泉
北海道立総合研究機構環境科学研究センター
-
野口 泉
北海道立総合研究機構
-
野口 泉
北海道総合研究機構環境科学研究センター
-
小松 大祐
名古屋大学大学院環境学研究科
関連論文
- 2003〜2006年度の湿性沈着調査が示す越境大気汚染 : 全環研酸性雨全国調査結果より
- 1B1500 北海道内積雪成分の長期変動について(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- P18 酸性雨モニタリングのための濃度と降水量を考慮した管理図
- P16 日本における降水中の主要イオン成分濃度の長期トレンド
- 1F0945 湿性沈着モニタリング網評価の試み その6 : 長期平均沈着量の空間分布
- 1G1015 湿性沈着モニタリング網評価の試み その5 : 長期平均沈着量の時空間変動のモデル化
- 1G1000 湿性沈着モニタリング網評価の試み その4 : 硫酸イオン沈着量の時空間変動
- 濃度勾配が示す草地からの亜硝酸ガスの間接発生
- P29 北方森林地域における Flux 観測結果とインファレンシャル法による推定乾性沈着量の比較 (1) : SO_2,HNO_3 及び NH_3
- ニーオルセンの極夜における新雪と環境大気の化学成分の観測
- 母子里における酸性雪の観測
- 2E1116 摩周湖における酸性霧の測定結果について(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 2I1106 乾性沈着量評価における時間分解能の影響(4過程-4沈着/4過程-5動態,一般研究発表)
- C213 台風に伴う降水雲の化学組成の変化 : 酸性雨対策調査(環境省)の結果から(環境気象)
- 国内遠隔地域における粒子状硫酸塩の乾性沈着量の推定
- 国内遠隔地域における二酸化硫黄の乾性沈着量の推定
- 日本における窒素酸化物および二酸化硫黄の濃度変動
- 日本における地表オゾンの季節変動と年々変動
- 輪島における日毎の湿性沈着に対する後方流跡線解析
- 遠隔地域調査地点における日毎の湿性沈着量に対する大規模黄砂の影響
- 湿性沈着への三宅島噴煙の影響
- 降水中の硫酸, 硝酸, 塩化物各イオンの組成の経年変動
- 湿性沈着量への長期変動モデルの適用
- 降水量と降水成分濃度の相関図からみた酸性沈着の地域的特徴
- モニタリング方法の概要並びに濃度及び沈着量の度数分布
- 捕集方法・周期及び機材の変更と降水データの変動
- 3G1422 全国酸性雨調査(65) : 乾性沈着(0式パッシブサンプラ法によるオゾン濃度の動向)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 3B1608 パッシブサンプラー,フィルターパック,拡散デニューダ法によるアンモニア濃度測定の比較(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 3B1556 20x20km内に都市域(神戸市)と山間部(六甲山)が存在するエリア内における大気中アンモニア濃度の分布(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 3B1544 千葉県におけるパッシブサンプラー及びフィルターパック法を用いた大気中アンモニア濃度(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 3B1532 宮城県におけるアンモニアガス濃度の分布(2)(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 3B1520 パッシブサンプラーによるアンモニア乾性沈着量の推定(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- P-82 2003〜2007年度における国内酸性雨長期モニタリング(2) : 乾性沈着解析結果(ポスター発表)
- P-81 2003〜2007年度における国内酸性雨長期モニタリング(1) : 湿性沈着解析結果(ポスター発表)
- 1I1324 パッシブサンプラーによるアンモニア濃度測定値の分布(5物質-1ガス状物質/5物質-5有害化学物質,一般研究発表)
- 1I1348 千葉県の畜産地域における粒子状物質中のアンモニウムイオン(5物質-1ガス状物質/5物質-5有害化学物質,一般研究発表)
- 3G1434 全国酸性雨調査(66) : 乾性沈着(沈着量の推計)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 3G1336 沖縄における大気および降水中の非海塩性硫酸イオンの挙動(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 3B1458 フィルターパック法による短時間サンプリングのための対応策(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 3B1446 フィルターパック法におけるサンプリング期間の比較(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 2E0930 O式パッシブサンプラー法におけるSO_2捕集剤の検討(第2報)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 1E1018 森林におけるエアロゾルとガスの乾性沈着(4過程-4沈着/5動態,一般研究発表)
- 3D0954 パッシブサンプラー測定値を用いたAOT40推定評価(2手法-3野外観測,一般研究発表)
- 1B0954 O式パッシブサンプラー法におけるSO_2捕集剤の検討(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- P17 北海道の降水に対する三宅島噴火の影響
- 1G1300 北海道における酸性霧
- P-58 汚染物質排出量グリッドデータベースと大気中NO_X濃度との関連について(ポスター発表(アカデミックプロムナード))
- フィルターパック法による亜硝酸ガス濃度の測定
- 1H1345 亜硝酸ガスの測定法と札幌における季節別濃度変動 : 拡散デニューダ及びフィルターパックによる
- 1B1348 全国酸性雨調査(62) : 乾性沈着(沈着量の推計)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 1F1430 全国酸性雨調査 (41) : 第 3 次調査乾性沈着調査結果
- 1F1500 全国酸性雨調査 (43) : 黄砂の影響
- 1D1530 全国酸性雨調査(37) : 乾性沈着調査結果
- 1F1345 全国酸性雨調査(34) : 乾性沈着量の評価
- 1B1324 全国酸性雨調査(60) : 乾性沈着(フィルターパック法による粒子・ガス成分濃度)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 1B1412 北海道における湿性沈着および乾性沈着成分の経年変動(2001〜2006年度)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 2F1030 湿性沈着モニタリング網評価の試み その 9 : 測定値の併合による空間分布の推定
- 2F0945 湿性沈着モニタリング網評価の試みその 8 : 沈着量間接推定法の検討
- 2B1130 湿性沈着モニタリング網評価の試み : その7 アメダスデータを用いた酸性雨局降水量の評価
- 摩周湖周辺の大気環境--霧とオゾンについて (特集 摩周湖外輪山の大気環境と樹木の衰退)
- 2B1115 重炭酸イオンのイオンバランスに対する影響(2)
- 1B1515 イオンバランスの許容範囲の設定に関する理論的考察
- 1F1415 重炭酸イオンのイオンバランスに対する影響(1)
- 第一次調査から EANET までの湿性沈着モニタリング
- 摩周湖の霧酸性化状況及びその要因について
- 寒冷地の酸性雨、大気汚染物質とその影響に関するモニタリング(寒冷地における酸性雨に関する諸問題)
- 本州日本海側地域における冬季降水中主要化学成分の特徴
- 1B1312 全国酸性雨調査(59) : 湿性沈着(地域特性および越境大気汚染)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- P21 日本における主要イオン成分湿性沈着量の年・季節トレンド
- 1G1545 Cloud deposition の評価 (1) : 雲に覆われる地域の推定
- 1A1330 降水化学の全国的状況(3) : 非海塩性硫酸イオンの濃度と沈着量の空間分布
- 1B1400 辺戸岬における湿性沈着の経年変動(2000〜2006年度)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 2F1100 降水試料に対する捕集装置からの汚染の評価
- EANET2000 が示す東アジアの湿性沈着
- 1F0930 krigingを用いた降水成分の空間分布 : 北日本の積雪成分
- 2C01 湿性沈着モニタリング綱評価の試みその1 : 時空間変動に着目した観測局の地域的な分類
- 酸性雨局とアメダス局との降水量の比較
- 1D1545 全国酸性雨調査(38) : 三宅島噴火の影響
- 降水・陸水試料の採取法とデータの評価
- 三酸素同位体組成を指標に用いた大気沈着窒素-森林生態系間相互作用の定量的評価法
- 3B1000 寒冷地におけるフィルターパック及び拡散デニューダ測定結果の特性(2)
- 1F1430 寒冷地におけるフィルターパック及び拡散デニューダ測定結果の特性
- オホーツク海沿岸地域における酸性沈着
- 歴史に学び, 歴史を拓く : 地方自治体※による"酸性雨"調査・研究の将来展望
- 北日本における亜硝酸ガス濃度と窒素酸化物由来成分の挙動
- 乾性沈着量評価のための沈着速度推計プログラムの更新
- 2G0930-4 東アジアの森林生態系におけるエアロゾルの沈着量と動態の評価(植物に対するエアロゾルの影響,特別集会2)
- 1E1532 パッシブサンプラーを用いた北海道の春季オゾン濃度測定(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 2D0939 全国酸性雨調査(78) : 乾性沈着(沈着量の推計)(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- P-67 ブラックカーボンとカリウムの相関について : バイオマス燃焼の影響(ポスター発表)
- P-64 森林内におけるオゾン濃度の鉛直プロファイルの季節変動(ポスター発表)
- 3B1113 わが国における大気中HONOの挙動(3)(4過程-4沈着/4過程-5動態,一般研究発表)
- 3B1126 フィルターパック法を用いた大気中ガス・エアロゾル成分濃度の日内変動(2)(4過程-4沈着/4過程-5動態,一般研究発表)
- P-59 北海道内積雪成分の長期変動について(ポスター発表)
- 摩周湖外輪山におけるダケカンバ衰退現象と立地環境 : 予備調査(会員研究発表論文)
- 北海道の大気中エアロゾル成分と樹木個葉に付着したエアロゾル粒子の観察(会員研究発表論文)
- 摩周湖周辺の樹木衰退とその要因としての酸性霧の検討(会員研究発表論文)
- 北海道における森林樹木の個葉に付着したエアロゾル粒子の観察(会員研究発表論文)
- D307 自治体による保存試料を用いた地表へのrefractory carbon総沈着フラックスの長期レコード復元(物質循環II,口頭発表)
- 摩周湖周辺の大気環境について(会員研究発表論文)