トンネル掘削残土の渓谷への埋め立てが渓流水質に及ぼす影響
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概要
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岩石中に硫化鉄鉱物を含む岩盤にトンネルを掘削し, 残土を周辺の渓谷に埋め立てると, 硫化鉱物が酸素を含んだ降水や地下水と接触し, 酸化・分解することにより硫酸酸性浸出水が発生し, 生物の斃死や有害金属類の流出などにより周辺環境に悪影響を及ぼす可能性がある。掘削残土の中に酸性化を緩衝する能力を有する鉱物が含まれる場合は, 中和作用により浸出水のpHの低下が抑制されるため, 浸出水のpHは, 硫化鉱物の酸化により生ずる硫酸量と, 緩衝鉱物の分解に消費される硫酸量の兼ね合いによって決まると考えられる。本研究では, トンネル掘削残土の埋め立てによる渓流水の溶存物質濃度の長期的な変化を明らかにするために, トンネル掘削残土の埋め立て区間の直上流, 直下流で, 埋め立て前から後まで23年間, 渓流水質をモニタリングし, その結果に基づき検討した。その結果, 1993~94年に埋め立てが終了した後16年が経過しても, 埋め立てによる渓流水質への影響は続いていた。埋め立て区間の下流ではSO4(2-), Ca(2+), アルカリ度が有意に高い状態が続いているが, 渓流水のpHの低下はみられず, Ca(2+)を主とするカチオンが, S含有鉱物の分解によって生じた硫酸を中和し, pHを中性に保ったと考えられる。埋め立てがCa(2+)以外のカチオン濃度を増加させた期間は3~5年間にとどまり, SiO2には埋め立ての影響がなかった。影響の継続期間については, ワサビ沢では31年, トウバク沢では17年から20年と試算された。To show the long-term changes in streamwater quality after dumping tunnel excavation muck along the canyon, streamwater chemistry monitoring was undertaken at points upstream and downstream from the site where rock muck had been dumped in Wasabi and Toubaku Creek over 23 years. The concentrations of SO4(2-) below the dumping site were significantly increased which is consistent with the results found in the previous study that some of the rock muck contained Greigite. The pH of streamwater below the dumping site was, however, not significantly different from that above the dumping site, suggesting that SO4(2-) was neutralized by some cations such as Ca(2+) which was also significantly increased below the dumping site. Although the difference of mean annual SO4(2-) concentration between the points upstream and downstream of the dumping site became smaller, the difference was still significant for 17 years after dumping. It takes about 31 years in the Wasabi creek and from 17 to 20 years in the Toubaku Creek for the SO4(2-) concentration of streamwater downstream of the rock muck to be returned to the level found upstream.
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