統合医療教育の導入に向けた基礎調査:─理学療法士への統合医療に関する意識調査─
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概要
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【はじめに・目的】 統合医療とは、近代西洋医学と伝統医学や相補・代替医療のそれぞれの長所を生かし、統合した新しい医学・医療を目指すものである。その特色は患者中心の医療で、治療のみならず、保健、予防および予後を含め、個人の自然治癒力を最大限に活かすもので、多様な治療法が提供できるとしている(厚労省.統合医療に対する厚生労働省の取り組み,2010)。統合医療は国際標準の動きが加速し、その利用率は米国で42.1%、日本で65.6%に及んでおり統合医療を求める患者がわが国でも急増している(鈴木,リハ医学43(1),2006)。統合医療の科学的根拠の解明は必須だが、国民の疾病治療等において統合医療の視点は不可欠である(厚労省)。また、幅広く統合医療の視点を涵養するために医学教育の充実は課題である(厚労省)。我々は医療系基礎教育として統合医療の教育プログラムを検討しており(代表:長島)、本研究はそのための基礎情報の収集を目的に行われた。調査の結果、医療・福祉施設職員の統合医療への意識や取り組み状況が明らかになったので報告する。【方法】 対象の医療・福祉施設は、研究への同意が得られた茨城県内の病院4施設及び老人保健施設3施設の合計7施設である。対象者は、当該施設に所属する理学療法士である。方法は、自記式質問紙調査である。【説明と同意】 調査対象者に研究の趣旨、調査参加の自由、無記名の質問紙による匿名性の保持を文書で説明し、回答をもって同意を得たものとした。また、返信には個別封筒を用いて対象者自身で厳封することでプライバシー保持に努めた。なお、本研究はつくば国際大学医療保健学部倫理審査委員会の承認を得た。【結果】 返信は95通(人)であり、年齢は29.5±6.9歳であった。女性39人、男性55人、無回答1であった。経験年数は5.7±5.5年であった。統合医療を日々の援助の中で行っている割合は22人(23%)であったが、統合医療を意識して行っていたのは6人(27%)と少なかった。施術の内容は、リンパマッサージを含むマッサージとリラクゼーションが多かった。統合医療が行われていない理由としては、「統合医療を知らない」が大変多く、そのほかには、「効果がわからない」「適応の判断(エビデンス)がわからない」「保険点数に反映しない」等であった。学生に学ばせたい統合医療教育および自身がこれから学びたいものとしては、マッサージ(65%)、食事療法(55%)、精神療法、カウンセリングが多かった。【考察】 今回の結果から医療・福祉領域で統合医療があまり取り入れられておらず、その理由は統合医療に関する知識不足であることが明らかになった。また、卒前および卒後の統合医療教育の必要性も認められた。理学療法の臨床においても統合医療の問題は指摘されており(沖田ら,理学療法科学19(1),2004)、統合医療を理学療法教育に取り込む仕組み作りの必要性が示唆された。なお、共同研究者の狩谷ら(2011)は看護師を対象に同じ方法で調査を行ったところ同様の結果を得ており、医療従事者全般への統合医療の普及・啓発活動と卒前教育の取り組みの必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 統合医療は日本の医療全体の問題であり、理学療法学としても取り組む必要がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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