髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
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概要
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【はじめに】<BR>近年、痙縮に対する治療であるITBが保険適応になり、当院でも脳神経外科により手術が施行された症例に理学療法を行う機会が増えてきている.今回、歩行が可能な痙性対麻痺例にITBが施行され、その理学療法(以下PT)を経験した.ITB後のPT介入において、効果判定につながる評価とアプローチについて検討したので報告する.<BR>【対象と方法】<BR>対象は女性2例.評価項目は術前後の1)下肢痙縮レベル(Ashworth評点)、2)10m歩行速度と歩数、3)足圧分布測定(F-Scan)とし、4)PTアプローチについて検討した.Ashworth評点は、股関節屈曲・外転、膝関節屈曲、足関節背屈の4部位の平均値を算出した.なお、対象者からは評価全般に関する説明と同意を得た上で、個人情報については匿名化した.<BR>症例A(65歳・女性):罹患歴12年.歩行は押し車レベル.ADL(FIM運動項目)は88点.下肢筋力は股屈曲4-、股伸展4、膝屈曲3-、膝伸展4、足背屈4レベル.関節可動域制限は足背屈-5~-10度.入院期間32日.<BR>症例B(35歳・女性):罹患歴25年.歩行は杖(両手・片手)レベル.ADL(同)は89点.下肢筋力は股屈曲2+、股伸展2+、膝屈曲2、膝伸展5、足背屈3レベル.関節可動域制限は足背屈-5~0度.入院期間44日.<BR>【結果】<BR>1)下肢痙縮レベル:症例Aでは術前2.75から術後1.75、症例Bでは術前2.5から術後1.75に改善した.<BR>2)歩行速度と歩数:症例Aでは、術前36.34 秒・44歩から術後24.3 秒・33歩となり、速度上昇と歩幅の拡大を認めた.また症例Bでは、両手杖歩行で10.38秒・21歩から術後は、足底全面接地を意識した両手杖歩行では18.0秒・23歩、自由歩行では12秒・20歩となったが、片手杖での歩行は困難なレベルであった.<BR>3)F-Scan:術後、症例Aでは下肢の荷重分散傾向が認められ、症例Bでは足底全面接地を意識した歩行で、後足部荷重の出現と荷重中心軌跡の延長を認めた.ただし、自由歩行では荷重中心の後方移動が少ない状態であった.<BR>4)PTアプローチ:両例とも股・膝周囲の筋力トレーニング、下肢の関節可動域練習を中心に行った.また床上での動作練習と荷重・歩行の再学習を目的とした練習を平行して進めた.<BR>【考察】<BR>ITB施行後下肢の筋緊張が軽減し、術後の歩行速度上昇や歩幅の拡大が認められ、痙縮の低下に伴い下肢の振り出しが改善したと考えられた.またF-Scanにより歩行時の荷重パターンについても変化を認め、本評価が歩行速度にあわせ、ITBの効果判定にも活用可能と考えられた.一方、歩行速度によっては痙縮の低下に基づく歩行パターンの習得が術後早期の間には困難となる可能性も示された.このことより、術後のPT介入は必須であり、下肢の支持性向上を図ること、更には足底接地を意識した歩行パターンの再学習の必要性が示された.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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