健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―
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概要
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【目的】脳血管障害片麻痺者(以下,片麻痺者)における共同運動は、選択的な筋収縮が行えないことを意味し,運動機能の回復を阻害する要因と考えられている.しかし、共同運動の性質について定量的に調べた研究は少ない.Dewaldらは共同運動を主働筋に対する付随的な運動として,主働筋により発揮される筋トルク(primary torque:以下PT)と主働筋以外の働きにより付随的に発揮される筋トルク(secondary torque:以下ST)を比較することにより、共同運動の性質を明確にしようと試みている.これまでにPTの大きさや方向がSTに影響することが報告されているが,姿勢がPTとSTに与える影響については明確ではない.そこで本研究では,健常者と片麻痺者を対象として,立位姿勢と座位姿勢の違いが最大随意足関節底屈筋力としてのPTと股関節最大等尺性伸展筋力発揮時に足関節に生じたSTに与える影響を明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】対象を健常成人10名(男性7名,女性3名,年齢23.8±3.3歳)と脳血管障害者7名(男性4名,女性3名,年齢52.1±10.9歳,BRSIII以上)とした.なお,本研究は京都大学大学院医の倫理委員会の承認を受けて行われ,対象者には書面にて同意を得た.足関節底屈トルクの測定には,装具型底屈トルク測定装置(短下肢装具の足継ぎ手部分に取り付けたユニットにより底屈トルクを計測する装置)を用いた.立位と座位において、最大随意足関節底屈筋力を発揮した時の足関節底屈トルク(PT) と股関節の最大等尺性伸展筋力発揮時に出現した足関節底屈トルク(ST)を測定した.トルクは体重で正規化された.各姿勢の健常者と片麻痺者におけるPTとSTの違いについて二元配置分散分析を用い,交互作用を認めた場合に対応のあるt検定を用いて比較した.また,PTとSTそれぞれにおける立位と座位の違いを対応のあるt検定を用いて比較した.<BR>【結果と考察】立位におけるPTとSTは健常者と片麻痺者で有意な交互作用を認めた.健常者のPT(0.68±0.12Nm/Kg)はST(0.07±0.05Nm/Kg)に比較して有意に大きかった.しかし,片麻痺者のPT(0.20±0.08Nm/Kg)はST(0.14±0.07Nm/Kg)と有意な差を認めなかった.座位におけるPTとSTにおいても同様に健常者と片麻痺者で有意な交互作用を認めた.健常者のPT(0.54±0.16Nm/Kg)はST(0.08±0.05Nm/Kg)に比較して有意に大きかった.しかし,片麻痺者のPT(0.09±0.04Nm/Kg)はST(0.11±0.07Nm/Kg)と有意な差を認めなかった.健常者と片麻痺者ともに,立位のPTが座位と比較して有意に大きかった.一方,STは片麻痺者において座位より立位で有意に大きくなったが,健常者において姿勢による差を認めなかった.本研究の結果より,どちらの姿勢でも健常者がPTをSTより大きく発揮できる一方で,片麻痺者はPTをSTより大きく発揮することが困難となっていると考えられた.また,健常者と異なり片麻痺者の共同運動は姿勢の影響を受けることが示唆された.
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