療養型病院における廃用症候群の予後予測
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概要
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【はじめに】 廃用症候群は急性期、回復期、慢性期等の時期に関わらず発生し、要支援・介護認定に至る原因の一つにも挙げられている。療養型病院における廃用症候群患者は症状が重篤であり、改善が困難な例が少なくない現状から、今回、重症度と予後予測の観点から検討したので報告する。【方法】 平成24年4月~9月の6か月間に退院した廃用症候群の患者。136名中、男性54名、女性82名、平均年齢85.0±8.15歳を対象とした。年齢、FIM、入院元、転帰、平均在院日数、佐鹿ら(2006)が提唱した廃用障害度(安静度、基本的動作、全身状態、精神心理、リハの場所の5項目にて軽、中、重度に分類)と廃用徴候点(実際に症状がある臓器、器官の数)を調査し、これらについて廃用障害度別にT検定、カイ二乗検定、分散分析と多重比較検定を用いて比較検討した。 また、退院時FIM、在院日数をそれぞれ目的変数、年齢、入院時FIM、廃用障害度、廃用徴候点、安静期間(A:2週未満、B:2週~1か月未満、C:1~3か月未満、D:3~6か月未満、E:6か月以上の5段階)を説明変数として死亡例を除いて重回帰分析のステップワイズ法(変数減少法)を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 後方視的研究であり、すべて匿名化された既存のデータを用いて検討を行った。個人を特定しない診療情報の利用については、入院時に全入院患者に対して同意を得た。【結果】 佐鹿らの障害度別では軽度群55名(40%)、中度群26名(20%)、重度群55名(40%)だった。 平均年齢は軽度群82.1歳、中度群84.1歳、重度群88.3歳で軽度群より重度群が高齢だった(* 以下、*p<0.05、**p<0.01とする)。 FIMは廃用前70未満の割合が重度群で96%、中度群で88%と軽度群より多く(**)、FIM平均(入院/退院)は軽度群63.7/68.3、中度群39.0/32.8、重度群26.4/18.9で重度になるほど低い傾向であった(*)。退院までに軽度群では軽微な改善、中度、重度群では有意な低下が認められた(*)。 入院元は病院が35~45%、軽度群で自宅が29%、重度群で施設が55%、転帰は軽度群で自宅が35%、重度群で死亡が75%だった(**)。 平均在院日数は全体で80.8日であり、障害度による差はなかった。 廃用徴候点は軽度、中度群に比べ、重度群で高い傾向であった(*)。 退院時FIMを説明する重回帰分析では入院時FIM、廃用障害度軽度、廃用徴候点が有意な因子として抽出され、調整済R²値は0.94、重回帰式は、FIM退院=障害度軽度×10.13+廃用徴候点×(-1.3580)+ FIM入院×0.85+13.72で、入院時FIMが低く、重度で障害臓器が多いほど退院時FIMが低い結果であった。 在院日数を説明する重回帰分析では、安静期間が有意な因子として抽出され、調整済R²値は0.39、重回帰式は、在院日数=安静A×(-602.05)+安静B×(-573.43)+安静C×(-568.51)+安静D×(-398.69)+642.86で、説明力は弱いが、安静期間の延長にて在院日数が増加する結果であった。【考察】 廃用症候群は全群の3~4割が病院、軽度群の3割が自宅、重度群の5割強は施設高齢者にて発生しており、在宅や施設等の介護保険領域との関連性が示唆されるが、これは施設において潜在的に廃用リスクが高い者が多く、廃用症候群を発症した場合に重度化しやすいと考えられる。障害度が中等度以上になると死亡の割合が高くなり、FIM改善も困難になる現状が明らかとなり、改めて予防と早期発見の重要性が示唆された。 いかに軽度の段階で食い止めるかが課題であるが、療養型病院では入院時に既に重度化している事も多く、病院間連携等の対策が必要と考えられる。万が一、重度化した場合でも二次的障害の予防と治療、可能な限りの離床をはじめとした介入の他、終末期ケアに移行する役割も求められる。特に後者は療養型病院にこそ求められる役割であり、今後具体的な介入方法の検討が必要なのではないだろうか。 重症度により、年齢や元々のADL能力から、入院元や転帰に至るまでが層別化され、各患者群に応じた予後予測や処遇の検討が可能となり、有用であったと思われる。在院日数は、施設入所待ち等の社会的因子の影響が考えられ、更に障害臓器別の特性や診療報酬上の位置づけなど今後の検討課題は多いと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 廃用症候群発生のメカニズムは広く認知されているが、患者の病態は複雑で多岐にわたり、対応に難渋するケースも少なくなかった。今回は重症度の観点を導入することで、患者の背景や予後を整理する一助となり、予防の重要性を再確認することができた。地域連携においても廃用症候群の予防が一つのテーマになり、啓発の意義もあると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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