後肢非荷重によるヒラメ筋毛細血管の退行性変化に対する中周波および低周波電気刺激の予防効果
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概要
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【はじめに、目的】 廃用による筋持久力の低下は骨格筋における毛細血管数の減少が原因の一つであるとされている。骨格筋の毛細血管は電気刺激を用いて筋収縮を誘発することで増加するとされているが、抗重力活動に関わる遅筋線維を多く含む深層筋に対する電気刺激には、埋め込み型の電極が必要となる。しかし、侵襲を伴うため毛細血管の退行性変化を予防する目的での臨床応用は難しい。また、表面電極を用いた低周波電気刺激は皮膚のインピーダンスによって深層の骨格筋に収縮を促すことが難しい。一方、表面電極を用いた中周波電気刺激は低周波よりもインピーダンスが小さいため、深層の骨格筋への到達度が高いとされている。このような報告より廃用に伴う深層の骨格筋における毛細血管の退行性変化を予防するには、低周波よりも中周波を用いた電気刺激が効果的であると予想される。この仮説を検証するため、深層の骨格筋であるラットのヒラメ筋を用いて、骨格筋内毛細血管の退行性変化に対する中周波および低周波電気刺激の予防効果を比較検証した。【方法】 20週齢の雄性SDラットを対照群(Cont)、14日間の後肢非荷重群(HU)、後肢非荷重期間中に低周波で電気刺激を実施した群(l-TES)、後肢非荷重期間中に中周波で電気刺激を実施した群(m-TES)の4群に分類した。l-TES群とm-TES群における電気刺激はペントバルビタール(50mg/kg, i.p.)による深麻酔下で、後肢を非荷重にした翌日から開始し、下腿後面に対して経皮的に実施した。刺激周波数は100Hzとし、刺激強度は等尺性収縮にて超最大収縮を誘発するように調節した。低周波電気刺激は矩形波を用い、中周波は2500Hzを搬送周波数とし、100Hzのビート周波数に変調された正弦波を用いた。この変調された波形の相持続時間は搬送周波数である2500Hzの相持続時間と同じである。電気刺激は1秒オンと2秒オフの20周期を1セットとし、セット間に5分間の休息を設定して6セット実施した。その6時間後、更に6セット実施し、1日合計12セット実施した。最終刺激の12時間後にヒラメ筋を摘出し、急速凍結して-80℃で保存した。その後12㎛厚の横断切片を作製し、アルカリホスファターゼ染色でヒラメ筋内の毛細血管を可視化し、光学顕微鏡所見を用いて筋線維あたりの毛細血管比率と筋線維周囲の毛細血管数を算出した。また、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色所見を用いて筋線維あたりのSDH活性を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定、並びにKruskal Wallis検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 筋線維あたりの毛細血管比率はHU群でCont群に比べて有意に減少した。l-TES群及びm-TES群はHU群に対して有意に増加し、m-TES群はさらにl-TES群と比べて17%の有意な増加を示した。また、m-TES群とCont群の間に有意差を認めなかった。筋線維周囲の毛細血管数は、HU群でCont群に比べて有意に減少した。l-TES群はHU群に対して26%の有意な増加を示したが、m-TES群はさらにl-TES群と比べて11%の有意な増加を示した。また、m-TES群とCont群の間には有意差を認めなかった。筋線維あたりのSDH活性は、HU群ではCont群に比べて有意に低下を示した。l-TES群はHU群に比べて有意に27%の上昇を示し、m-TES群はl-TES群に比べてさらに5%上昇した。【考察】 非荷重に伴うヒラメ筋における毛細血管の退行性変化は、低周波よりも中周波を用いた電気刺激において予防効果が高かった。電気刺激において正弦波は矩形波と比べて皮下の脂肪組織における透過性が高く、深層の骨格筋への到達度が高いとの報告がある。本研究では中周波を用いた電気刺激における筋線維あたりのSDH活性は低周波に比べて高値を示しており、正弦波を用いた中周波は矩形波を用いた低周波よりも効果的にヒラメ筋を収縮させることができたと考えられる。また、骨格筋の収縮により酸素の需要供給バランスが崩れると筋細胞は低酸素状態に陥る。この状態が誘因となり血管新生因子であるVEGFやその転写因子であるHIF-1αが発現し、骨格筋における毛細血管の新生を促進すると報告されている。VEGFの発現は電気刺激による骨格筋の収縮によっても増加することが報告されており、本研究においてもこの機序が働いたものと考えられる。今後は分子生物学的な解析も加えて、中周波による電気刺激の効果を検証する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 廃用に伴う骨格筋内毛細血管の退行性変化に対して、中周波を用いた電気刺激は低周波よりも予防効果が高いことが明らかとなり、治療手段の拡大や臥床期間の短縮に繋がる可能性が示唆された。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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