赤外線レーザーを応用した新しいステップ動作測定機器による転倒リスク評価の有用性の検討:─時間・空間・認知的側面を考慮した指標を用いて─
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概要
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【はじめに、目的】 日常生活における転倒回避には、正しい方向への素早い適切なステップ動作が求められることが多い。また、この動作は反応速度、ステップ動作能力のみでなく、認知機能を含めた多面的な機能・能力から構成される。そして、これらの要素を個々に評価する機器、方法は散見されるが、これらを同時に複合評価した研究、ひいては機器はまだ見受けられない。そこで我々は測量等の領域で用いられる赤外線レーザーを利用した光学機器:レーザーレンジファインダー(LRF)を応用して、複数課題条件下でのステップ動作の時間・空間・認知的指標を同時に且つ簡便に測定できる機器(LRF-Fall risk Assessment:LRF-FA)を開発した。本研究の目的は、LRF-FAの転倒リスク評価機器としての有用性を検討することである。【方法】 対象は地域在住高齢者151名(73.9±4.6歳)とした。歩行に介助が必要な者、顕著な認知機能低下、重度な神経学的・整形外科的疾患の既往を有する者は除外した。課題は十字に並べた5つの30cm四方のマスの中央に静止立位した状態から開始した。前方の画面に矢印が表示されたら、できるだけ早くその方向のマス内に両脚とも正確に移動し、その後再び中央のマスに戻るように指示をした。課題は前後左右の4方向を無作為に2回ずつ、計8施行を連続して行った。LRF-FAにより、指示時刻、第一脚離地時刻、第一脚接地時刻を感知し、時間的指標として指示時刻から第一脚離地時刻までの時間(離地時間)、指示時刻から第一脚接地時刻までの時間(課題遂行時間)を算出した。また、空間的指標としてステップ長を、認知的指標として各施行の正答率を算出した。時間、空間的指標は各々8施行の平均値として算出した。その他、10m通常歩行時間(10WT)、Timed Up & Go test(TUG)、Rapid Dementia Screening Test(RDST)を測定した。さらに、過去1年の転倒経験より転倒群と非転倒群に群分けした。統計解析は、LRF-FAにより計測した指標と運動機能、認知機能との関連性を検討するため、Spearmanの順位相関係数を算出した。また、従属変数に転倒経験の有無を独立変数に年齢、課題遂行時間、ステップ長、正答率を投入したロジスティック回帰分析を行い、回帰式を作成し、時間・空間・認知的側面を統合したFall risk scoreを算出した。さらに、Fall risk scoreのカットオフ値を算出するため、ROC解析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を得て、紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、同意を得られた者を対象者とした。【結果】 転倒群39名(25.8%)と非転倒群112名(74.2%)であり、離地時間(転倒群:0.84秒、非転倒群:0.78秒)、課題遂行時間(転倒群:1.14秒、非転倒群:1.06秒)にはそれぞれ有意な群間差を認めた(p < 0.05)。また、離地時間、課題遂行時間は10WT、TUG、RDSTと、またステップ長は10WT、TUGとそれぞれ軽度の相関が認められた(p < 0.05)。さらに、回帰式より算出したFall risk scoreについてROC解析を行うと、Fall risk scoreのAUCが0.65、感度が0.62、特異度が0.60であった(カットオフ値:-0.67、p < 0.01)。【考察】 本研究の対象者において、LRF-FAにおけるFall risk scoreは転倒ハイリスク者をスクリーニングできる可能性が示唆された。また、本機器により計測した時間的指標は運動機能、認知機能と、ステップ長は運動機能との関連性がみられた。LRF-FAでは認知的負荷を与えた状況での反応速度やステップ動作を課題としているため、運動機能、認知機能の双方を反映する結果となったと考えられる。LRF-FAは狭いスペースにおいて実施可能であり、さらに難易度を自由に調節できるといったゲーム性を有している。今後の実用化へ向けたさらなる検討が必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 LRFは比較的安価で且つ小型であり、1台で時間的、空間的測定を行えることから、臨床場面での応用の可能性を秘めた次世代型の機器と言える。本研究により、高齢者の転倒リスク評価の一つとして、多側面を同時に評価できるLRFを用いた新しいステップ動作測定機器の有用性が示された。今後は前向きな調査を行い、転倒発生との関連性を明らかにし、さらには転倒予防Exercise機器としての有用性を検討していく必要があると考えている。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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