福祉・相談支援部門における理学療法士の役割
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概要
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【はじめに】 当センターは、リハビリテーション病院(以下リハ病院)、障害者支援施設(以下施設)、相談支援部門(以下相談部門)が一体となり、県内のリハビリテーションの中心施設としての役割を担っている。相談部門には身体障害者福祉法第11条に基づく県の行政機関である身体障害者更生相談所を設置し、政令市を除く全県内を対象に、補装具や更生医療の相談・判定を行っている。更生相談所は、区市町村が行う身体障害者の更生援護にあたっての相談及び指導のほか、医学的、心理学的、職能的判定の実施と補装具の処方及び適合判定、その他身体障害者援護の専門的技術的な援助などを行う。理学療法士の配置はリハ病院が主であるが、施設や相談部門にも配置されている。今回は相談部門からの視点で、事例を通しての理学療法士の役割について報告する。【方法】 相談部門では、来所、電話相談及び訪問による相談事業を行っており、理学療法士は補装具、福祉用具、住環境整備等に関する相談に対応している。更に身体障害者更生相談所においては義肢装具の適合、座位保持装置・車いすの評価・検討、電動車いす走行チェック、実地調査等に関わっている。事例は、30歳代・男性・デュシェンヌ型筋ジストロフィー症。身体機能は、両股関節外旋・屈曲、両膝関節に屈曲拘縮あり、脊椎は生理的彎曲が減少し、直線的となっている。感覚は問題ない。端座位で股関節痛あり、胡座姿勢で痛みが減少する。座位保持能力は前後方向に不安定であった。人工呼吸器を24時間装着し、適宜の痰吸引が必要である。ADLは全介助。電動車いすへの移乗は、母が担いで全介助で行うが、操作は自立している。付き添いを伴っての外出が頻繁であり、活動的なケースである。電動車いすの希望で相談があり、更生相談において座位保持の評価が必要と判断された。リハ病院の理学療法外来で、医師の指示のもと、リハ病院の理学療法士、相談部門の理学療法士・作業療法士・エンジニア、車いす作製業者とで、座位保持装置作製のため、シーティングの評価と検討を行った。また、現在の移乗方法は家族の負担が極めて大きいと判断し、今回処方の座位保持装置付電動車いすの仮合わせ後に、移乗用具導入のための訪問相談を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 事例には、発表について説明し同意を得た。【結果】 処方案は、骨盤・大腿部から下腿部までの採型モールドの座位保持装置付き、電動ティルト・手動リクライニング式普通型電動車いすとした。加えて、テーブル中央にコントローラーを置いて、両側体幹パッドと胸ベルトを用いたところ、1 時間の乗車でも臀部の痛みや発赤がなく、乗車時に手製クッションを複数個挿入する介助が軽減できた。訪問相談では、自宅での移乗方法を確認後、持参したリフターを試行した。本人、家族ともに、リフター使用への抵抗感はなかったが、購入に際しては、価格等を考慮して機種や購入時期の調整が必要であった。【考察】 座位保持装置作製のためのシーティング評価は、本人、家族の他、多職種が関わることで生活上有用な検討を行うことができた。また、移乗用具の導入にあたっては、更生相談をきっかけに、家族に問題点を整理して示せたことで、市町村福祉担当者との連携により訪問相談事業に繋ぐことができた。訪問時には、給付された座位保持装置付き電動車いすの適合評価も実施した。関係機関が連携することで、様々な視点から事例の持つ問題を解決することができた。相談部門の訪問相談事業は、地域リハビリテーションの推進を目的として専任のスタッフを置いて、在宅生活に関する相談に応じている。相談支援に携わる時は、市町村福祉からの依頼であるため、病院や施設等で継続して関わる業務と比較すると、事前の情報収集や情報提供の準備、当日の評価や臨機応変な対応、事後の提案や報告などの一連の流れを1度の訪問で行なわなければならないため、知識と経験の蓄積が必要である。一方で、訪問相談事業が周知された結果、事前の情報不足のままの依頼が増加し、また訪問リハビリと勘違いされるなどの問題を生じている。フォローアップ体制の充実が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 昨今、様々な領域で活躍する理学療法士が増えてきているが、相談支援部門の中で専門性を活かして関わることの重要性について報告することは、理学療法の社会的意義の発展に有意義である。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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