当院通所リハビリ利用者の要介護区分による身体機能の比較
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概要
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【はじめに、目的】 通所リハビリにおいて利用者の身体機能の維持・向上していくため、リハビリに対するニーズは高い。現在の介護保険制度では要支援と要介護に区分され、要介護認定を受けた利用者のみ個別リハビリを実施し、要支援と判定された利用者は運動器の機能向上プログラムにより運動を実施している。2007年にも当院での要介護区分による身体機能にどのような相違があるか発表し、要支援と要介護に有意差が認められない結果となり、認定基準に問題があるのではないかと考えた。今回は、現在でも身体機能に相違があるのか再度確認することで認定基準に身体機能がどう影響し、どう反映しているのか検討することを目的とした。【方法】 対象は当院の通所サービスを利用している要支援1・2と判定された女性14名(平均年齢84.0±5.3歳:以下A群)と要介護1・2と判定された女性14名(平均年齢83.9±5.3歳:以下B群)である。また両群ともに疼痛・認知症がなく、Barthel Index90点以上の者とした。身体機能の測定としては、介護予防マニュアル(運動器の機能向上マニュアル)に沿って筋力(握力、下肢伸展筋力)・バランス機能(Functional Reach以下FR、開眼・閉眼片脚立位時間)・歩行能力(通常・最大歩行速度)・複合動作能力(Time Up & Goテスト以下TUG)・柔軟性(長座位体前屈)の各身体機能の測定を2回ずつ実施し、それぞれ平均値を採用した。両群の比較はt検定を用い危険率5%未満の場合は統計学的に有意差があるものとした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に研究の主旨について説明した後、書面への署名によって同意を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 身体機能の測定の結果、すべての項目においてA群・B群間に有意差は認められなかった。測定結果として握力(A群:13.4±3.9 B群:15.3±4.5)・下肢伸展筋力(A群:12.9±5.5 B群:14.0±7.2)・TUG(A群:17.2±7.2 B群:14.3±4.3)・通常歩行(A群:8.4±2.5 B群:8.2±2.4)・最大歩行(A群:6.6±2.4 B群:6.0±1.9)・片脚立位開眼(A群:4.3±4.3 B群:7.7±7.0)・片脚立位閉眼(A群:1.1±0.7 B群:1.6±0.8)・立位FR(A群:13.1±4.7 B群:14.9±5.8)の項目で介護度とは逆にB群の平均値がA群の平均値よりやや優れていた。【考察】 今回の研究よりA群・B群間に前回同様、身体機能の相違は認められなかった。また身体機能の測定の結果より、B群がA群の平均値よりやや優れている。リハビリにおいても実施回数や訓練内容にかなりの差が生じ、自主訓練中心のA群より個別リハビリを実施しているB 群で身体機能が優れている傾向がみられた。これらの結果より身体機能は現在の介護保険における認定基準に十分反映されていないのではないかと考える。要支援と認定された利用者は、要介護と認定された利用者より圧倒的にサービスの利用が制限されている。また要支援者からサービス内容に対する満足度に要介護者との相違があり、十分なサービスの提供ができていないのが現状である。現在の認定基準の一連の流れとして、市町村による福祉事務所のケースワーカーや保健センターの保健師等が全国共通の認定調査票を使って調査し、これらのデータ処理をコンピューターが行っており、実際に身体機能の測定を詳細に行っているわけではない。これより理学療法士が専門的に身体機能の測定等実施し、より細分化することで、このような介護認定基準を明確にすることが大切なのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、介護認定基準において、身体機能評価の専門家である理学療法士が関与することで、認定基準をより明確にできると考え、また新たな分野で理学療法士が活躍できる可能性も秘めている。こうすることで当院の利用者含め、介護認定を受ける側としても満足のいく認定結果になるのではないかと考える。
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