地域在住高齢者の平均歩数と身体機能との関連性について:─地域交流活動を通じた理学療法士の可能性について─
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに、目的】 加齢に伴うからだの変化は、高齢者の日常生活における様々な行動に影響を及ぼす。体力や健康を維持していくことは、生きがいを持ち、心豊かに生活していくためにも大変重要である。近年、身体活動量が注目されているが、歩数は誰にでも簡便に計測でき、理解しやすく、普段の運動量の目安となることから身近な指標として使用することができる。一方、介護の必要が全くない日常生活が自立した地域在住高齢者についての歩数と身体機能の基礎データは未だに不足しており、理学療法士のかかわりも不透明なままである。そこで本研究では、介護の必要が全くない日常生活が自立した地域在住高齢者を対象に筋力や平衡機能、歩行能力、柔軟性などの身体機能評価と、30日間の平均歩数を測定し、地域在住高齢者の歩数関連因子と身体機能の特徴を調査することを目的とした。【方法】 本プロジェクトは本大学地域連携実践センターが企画した「地域と大学が一丸となり健康問題について取り組む地域健康プロジェクト」の一環として行われた。対象は神戸市ポートアイランドに居住し日常生活の全てが自立している65歳以上の高齢者14名(男性7名、女性7名)で、日常生活に著しく影響を及ぼすような運動器疾患および呼吸循環器疾患を持つ者は除外した。対象者の平均年齢は72.7±4.8歳、平均身長は159.3±10.5cm、平均体重は53.4±8.3kgであった。身体機能評価として呼吸機能(%FVC、1秒率)、筋力測定(膝伸展筋力、握力)、バランス機能(片脚立位時間、Functional reach test:FRT)、 歩行能力(Timed up and go test:TUG、最速10m歩行)、柔軟性(長座位前屈)を測定した。また、対象者の日々の活動性を把握する目的で30日間の平均歩数を測定した。歩数の測定は活動量計(オムロン社製,Active style Pro HJA-350IT)を用いて、身体機能の評価後30日間測定した。歩数測定は起床後から夜寝るまで(入浴時は除く)を原則とし、測定の30日間は普段と同じ生活をすることを心がけるように指示した。30日後に活動量計を回収し、平均歩数を算出した。統計学的分析として、平均歩数と身体機能評価各指標との関係についてSpearmanの順位相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得て実施し(第10006号)、すべての対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い、本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。【結果】 30日間の平均歩数は7,006±2,986歩であった。この30日間の平均歩数と相関関係を示したのは、筋力測定項目である膝伸展筋力(r=0.66、p<0.01)、握力(r=0.75、p<0.01)、ならびに歩行能力測定項目であるTUG(r=-0.66、p<0.01)、最速10m歩行速度(r=-0.49、p<0.05)であった。一方、呼吸機能測定項目である%FVC、1秒率や、バランス機能測定項目の片脚立位時間、FRT、柔軟性測定項目である長座位前屈のいずれも30日間平均歩数とは相関関係を認めなかった。【考察】 本研究の結果より、活動量の多い高齢者、つまり普段から多く歩いている高齢者ほど膝伸展筋力、握力が強いことが示され、歩数の把握は大まかに高齢者の筋力を知る上で有効であることが示唆された。また、普段から歩数の多い高齢者ほどTUGや最速10m歩行速度も速く、応用歩行能力が高いことが示された。今回の結果は、日常生活が自立している地域高齢者の場合、身体機能を総合的に維持するためにも、歩数による活動量の指標以外にも、呼吸機能、バランス機能、柔軟性などの身体機能指標にも配慮する必要性を示唆するものと考えられた。今回の調査はポートアイランド在住のコホートを対象としており対象の均質性が期待できる。そのため、今後は対象数の増加に加えて、縦断的な身体機能や歩数の変化についても検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】 健康意識が高まり、積極的にウォーキングなどの運動を行っている地域在住高齢者も多いとはいえ、加齢に伴う様々な身体機能の低下が懸念されている。理学療法士は普段は身体に障害にあるものを対象にすることが多いが、今回の結果は理学療法士が日常生活が自立した地域高齢者に対しても、身体活動量に加えて各種身体機能の評価を行い、普段から行っている運動の身体機能への影響を分析するなど、高齢者の健康管理に積極的にかかわる必要性と理学療法士の地域への職域拡大の可能性を示唆するもの思われる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―