移乗移動支援ロボットRodemと普通型車いすの移乗動作比較
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概要
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【はじめに】 車いすは,何らかの原因により歩行が困難となった患者が,再び自力での移動能力を獲得するのに適した乗り物である.そのため,車いすへの移乗動作は,リハビリテーションを開始して最初の目標になることも少なくない.しかし,その動作は車いすを自走するよりも難解であり,危険を伴いやすいため,脳卒中や脊髄損傷などによって重度の麻痺を伴う患者や,起き上がるのも困難な虚弱高齢者にとっては,大きなハードルである. また,昨今の高齢化事情により,いわゆる老々介護となっている現代社会では,在宅などで患者を車いすへ移乗させる場合にも,介助者の力や技術が不足していることが多く,そのような場合には患者を転倒させるばかりか,自らの身体的負担も大きく腰痛等を引き起こす可能性がある. このような理由から,日常生活で行われる移乗動作は,「容易」かつ「安全」かつ「早い」方法が求められている. そこで我々は,今までにない移乗方法を考案するとともに,移乗だけでなく移動も支援出来る移乗移動支援ロボット(以下Rodem)を,テムザック社と共同で開発した.Rodemは,従来の車いすのように背もたれがなく,代わりに胸当てが付いている.また,座面は電動昇降機能がついており,任意の高さに調整が可能となっている.これらの特徴から,前方からすべり込むようにした移乗を可能とする車いすロボットである. 今回は,このRodemの移乗方法と,普通型車いす(W/C)を使用した従来の移乗方法を,多機能な動画編集ソフトを使用して,その違いを視覚的にわかりやすくまとめたので報告する.【方法】 対象の健常成人5名に,交代でベッドからRodemとW/Cに乗車してもらった.その場面をデジタルビデオカメラ(SONY製)にて,頭上と矢状面から撮影した.その撮影した映像は,動画解析ソフトウェア「ダートフィッシュ」を使用し,両者の動作軌跡と時間的優位性について注目し編集した. 動作軌跡では,サイマルカムと呼ばれる映像の合成と,ストローモーションと呼ばれる映像の残像技術を用いて,両者を比較した. 時間的優位性では,RodemとW/Cの頭上・矢状面から撮影した動画をそれぞれ抽出し,これら合計4つの動画をひとつの動画ファイルにまとめて比較した.【説明と同意】 対象者には,事前に十分な説明を行い書面で同意を得た上で実施した.【結果】 動作軌跡では,Rodemの移乗軌跡がほぼ水平で直線的であるのに対し,W/Cでは3次元的な複雑な軌跡を残し,軌跡長も延長していた. 時間的優位性は,移乗完了までRodem平均約4秒に対し,W/Cでは平均10秒以上かかっていた.【考察】 W/Cの移乗手順には,大きく3つのステップがあり,さらに7つの要素に分解できる.第1のステップでは,重心を後方から前方に移動する.すなわち,身体を前進させ膝を曲げて足を引き込む(前進)→前屈姿勢になって,離床の前段階に至る(前傾)→腰を浮かす(離床)へと進む.第2のステップでは,身体の向きをベッド方向から車いす方向へと変えるため,その場で135°のターン(旋回)を行う.第3のステップでは,第1ステップの逆手順で,座面に腰を下ろして(着座),後方に重心移動(正立・後退)を行い,移乗動作を完了する. しかしながら,Rodemでは前述のステップ1のみで移乗が完了する.すなわち,ベッドの高さまでRodemの座面を昇降させた後,従来の方法と全く同じように重心の前方移動を行う.ところが,その次の回旋動作は全く行わず,身体の向きを変えずに重心を前方に移行させたまま,Rodemに乗り移る.後は適当な高さに再び座面を昇降させ,移乗を完了する. このシンプルな移乗方法がRodemの最大特徴であり,W/Cよりも動作軌跡を短縮させた結果はこれを反映していると考えられ,より容易な移乗方法であるといえる.また,従来3ステップであった移乗動作を1ステップのみにしたことで,転倒リスクの高い回旋動作を除外して移乗が完了するため,安全面も速度面でも優位性は高いと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 Rodemは,移乗動作のみならず,座面や操作システムなど,従来のW/Cにはない特徴も兼ね備えているが,座面及び胸当ての体圧測定や筋電解析,走行時の安全性検証など,実用化に向けた取り組みはまだ必要であり,現在も医学的リハビリテーションの立場からアドバイスを行っている. さらに,今後は車体をコンパクトにし,日常生活をより過ごしやすくするための,超信地旋回や横方向移動,段差昇降機能,障害物回避制御などのロボット技術を取り入れ,日本の家屋事情にも適合する屋内型Rodemの開発と実用化にも着手していく予定である.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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