高齢脳血管障害者の転倒に影響する因子
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概要
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【目的】 脳血管障害(CVA)者における転倒による受傷経験は13%-29%とされている.リハビリテーションが進行すると,ADL活動度が見守りから自立といったように非断続的に上昇する.その一方で,内因性の危険因子は緩徐に改善するのみであるため,転倒が発生しやすい.特に高齢になるほど転倒の際に骨折や外傷を発生する頻度は高くなる.また,恐怖感などの心理的影響は理学療法を進めるうえで大きな阻害因子となる.筆者らは医療従事者として,いかに転倒事故を防止するかが重要な課題と考えている. これまでCVA者の転倒について述べた報告は数多くあるが,入院中の高齢CVA者を対象とした報告は散見される.そこで本研究は回復期病棟入院中の高齢CVA者に対象を絞り,転倒に影響する因子を明確にすることを目的とした.【対象・方法】 対象は兵庫県立リハビリテーション西播磨病院の回復期病棟に入院した高齢CVA者21名(年齢74.6±6.9歳,男性15名,女性6名)とした.原疾患の病型分類は脳梗塞14例,脳出血7例であり,麻痺側別には,左麻痺10例,右麻痺11例で,発症より19.6±15.7日経過していた.平均入院期間74.0±37.8日であった.本研究における転倒は,Gibson(1990)の定義に従い「自らの意思によらず,足底以外の部位が床,地面についた場合」とし,入院期間中の転倒の有無により2群(非転倒群,転倒群)に分類した.なお,転倒の観察期間は当施設入院時から退院時までとした.今回の除外項目は意識障害および視覚・聴覚の障害を有する者,身体機能に影響する合併症(パーキンソン病,メニエール病,重度心疾患,切断,大腿骨頚部骨折)を有する者,睡眠剤投与歴のある者,検査内容が理解できない者とした.入院時記録から,年齢,性別,病型,発症から入院までの期間,入院期間,麻痺側,入院時の下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),入院時Functional Independence Measurement(FIM),入院時Berg Balance Scale(BBS),入院時10m最大歩行テスト(10m歩行),認知機能測定に使用されるMini Mental State Examination(MMSE),また,空間認知機能の測定に用いられるレーヴン色彩マトリックス検査(Reven)を抽出し,転倒に影響する因子について検討した.統計的手法には非転倒群と転倒群の比較に,対応のないt-検定ならびにχ2検定を用いて分析を行った.また今回,単変量解析において有意であった項目間の関係性をみるためにPearson相関分析を実施した.統計解析はDr.SPSS II for Windowsを用いて行った.有意水準を危険率5%未満とした.【説明と同意】 本研究の趣旨は兵庫県立リハビリテーション西播磨病院の臨床倫理委員会にて承認され(承認番号02),対象は,本研究の内容について十分な説明を受け同意のもとに参加した.【結果】 今回の解析対象は非転倒13名(男:女=9:4,年齢72.5±6.4)であり,転倒群8名(男:女=5:4,年齢78.0±6.8)であった.入院時FIMは非転倒群96.8±17.5に対して転倒群62.50±20.4,入院時BBSは非転倒群43.5±29.4点,転倒群が29.4±16.2点,Revenは非転倒群25.5±4.6点,転倒群は17.3±9.3点であり,転倒群において有意に低い値(p<0.05)を示した.その他の項目,年齢,性別,病型,発症から入院までの期間,入院期間,麻痺側,下肢BRS,入院時10m歩行において有意な差は認めなかった.単変量解析により有意差のある項目間での相関関係をみると,入院時FIMとBBSに正相関の関係を認めた(r=0.54,p<0.05).【考察】 以上の結果より,高齢CVA者の転倒には入院時のバランス機能や日常生活動作能力が関係することが示唆され,筆者らの先行研究(2009)と同様の結果であった.また,Ravenに関しても転倒群が有意に低値を示したことから,高齢CVA者の転倒には身体機能や日常生活動作能力のみならず,空間認知機能との関連もあることが示唆された.これらの結果を踏まえて,転倒予防の手段や対策を講じる必要があると考える.今後,さらに症例数を増やし,高齢CVA者の転倒因子について検証していくとともに転倒予測のための指標を確立したい.【理学療法学研究としての意義】 現在,高齢CVA者を対象とした転倒に関する報告は少ない.高齢CVA者の転倒に影響する因子を明確にすることで,転倒予防対策や転倒予測という観点において有益な情報となり,理学療法研究の意義は高いといえる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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