訪問リハビリテーションを利用している脳卒中患者の退院時身体能力とADLとの関係
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【目的】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)では、在宅復帰を目標に身体・認知機能、ADLの改善を中心としたプログラムが展開され、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)では、在宅生活の安定を図りながら活動的な生活が送れるよう支援を行っている。しかし、回復期病棟から在宅生活までの経過を調査している報告は少ない。今回、訪問リハを利用している脳卒中患者を対象に退院時の身体能力と在宅復帰後のADLの関係について調査した。【方法】 対象は併設病院回復期病棟でリハビリテーション(以下、リハ)を行い退院した患者で、2008年4月から2011年7月までに訪問リハを新規利用した脳卒中患者41名。内訳は男性19名、女性22名。年齢は67.3±14.4歳。回復期病棟から直接在宅復帰した群(以下、直接群)25名、他院や介護老人保健施設を経由した群(以下、経由群)16名に分類した。方法は、1.入院時、退院時、訪問リハ開始時(以下、開始時)、最終時(終了した者は終了時、継続している者は2011年10月までの最新のFIMを最終時とする)の合計FIM、運動FIM、認知FIMを比較した。2. 開始時、最終時の運動FIMと退院時Fugl Meyer Assessment(以下、FMA)の合計と各項目の相関を調査した。3.訪問リハ開始までの経過を直接群と経由群に分類し、FMAの合計と各項目を比較した。4.直接群と経由群の合計FIM、運動FIM、認知FIMを各時期で比較した。統計処理として1.はScheffes F test、2.はSpearmanの順位相関係数、3.4はMann-Whitney検定で比較した。統計学的有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当法人の倫理委員会の規定に基づき研究したものである。【結果】 1.入院時と退院時、開始時、最終時の間で合計FIM、運動FIM、認知FIMに有意差を認めた(p<0.01)。その他の各時期の間では差はみられなかった。2.開始時の運動FIMと退院時FMAの合計、バランス、ROM(p<0.01)、上肢、下肢(p<0.05)で正の相関を認めた。最終時の運動FIMでは退院時FMAの合計、バランス(p<0.01)、ROM(p<0.05)で正の相関を認めた。3.直接群と経由群の退院時FMAは合計、ROM、疼痛、感覚において有意差を認めた(p<0.05)。4.直接群と経由群の合計FIMは入院時、退院時、開始時(p<0.05)で有意差を認めた。運動FIMでは、入院時(p<0.01)、退院時、開始時(p<0.05)に有意差がみられた。認知FIMでは、退院時(p<0.05)のみに有意差がみられた。最終時では合計FIM、運動FIM、認知FIMともに有意差は認められなかった。【考察】 結果1より、退院時以降は合計FIM、運動FIM、認知FIMに変化は認められず、退院時のADL能力を維持できている事が示された。これは併設病院でのリハにより個々の能力を引き出し、退院時には十分なADLの回復が得られたと考えられる。これまでの先行研究では、達成されたADLレベルを維持することは困難な場合が多いとされ、石川らによると運動FIM70点未満の患者はFIMの向上は難しいとされている。今回の対象では開始時の運動FIM70点未満の利用者が24名とADLが低下しやすい利用者が半数以上を占めていた。ADLが低下しやすい利用者に対して訪問リハを利用することがADLを維持するために有効であると考えられる。結果2では運動FIMと退院時FMAに関して、開始時で合計、バランス、ROM、上肢、下肢に正の相関を認めた。しかし最終時では上肢、下肢に関して相関を認めなかった。運動麻痺の違いに関わらず、残存能力や代償動作を利用しながら環境に適応できるよう支援することによりADLを維持・改善することが可能と思われる。結果3、4では直接群に比べて経由群は、退院時FMAの合計、ROM、疼痛、感覚において有意に低かった。また、2群間の合計FIM、運動FIMでは入院時、退院時、開始時においては経由群が有意に低かったが、最終時では有意差はみられなかった。身体能力やADLが低く他院や施設を経由した利用者に対し継続的にリハを行うことにより、在宅復帰後のADLは直接群と同等のADL能力まで改善できることが分かった。【理学療法学研究としての意義】 訪問リハを利用することにより身体能力や訪問リハ開始までの経過の違いに関わらず、在宅復帰後のADLは維持・改善することが分かり、訪問リハでは身体能力だけでなく認知機能や環境因子を考慮しながら支援を行うことが重要だと思われる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―