回復期リハビリテーション病棟における退院1週間後のADL変化の実態とその影響因子
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概要
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【はじめに、目的】 リハビリテーションの経過において、退院時から退院数か月後の日常生活の変化に関する調査研究はいくつかの報告がある。他方、退院によって入院生活から在宅生活へ移行するにあたり、生活環境に大きな変化が生じている退院直後のADL変化について詳細に報告しているものは極めて少ない。そこで本研究では、入院中の理学療法効果や潜在的な動作能力を最大限に在宅での実行状況へ反映できるような介入方法と支援体制を確立するため、退院1週間後のADL変化の実態とその影響因子を明らかにすることとした。【方法】 対象者は、A病院回復期リハビリテーション病棟へ入院し、自宅へ退院した者とした。なお、言語障害、視聴覚障害などにより、正確な調査が困難な者は除外した。評価項目は身体機能面の評価として、(1)Functional Independent Measure(FIM)、(2)機能的動作尺度(臼田 2000)、精神・心理面の評価として(3)Self-rating Depression Scale(SDS)、(4)Apathy Scale 、(5)Mini-Mental State Examination(MMSE)、(6)Fall Efficacy Scale(FES)、環境面の評価として(7)Home And Community Environment (HACE) 、(8)動作環境評価(段差の高さ、手すりの長さ、動作スペースなど)を実施した。評価時期は(1)から(6)の項目は、入院時、退院時、退院後1週間(以下;退院直後)に実施し、(7)は退院直後、(8)は退院時と退院直後に実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、筆者が所属する大学院生命倫理審査委員会の承認を経て、対象者には書面によって個別に説明し同意を得た。【結果】 分析対象者は82名(男性27名、女性55名、平均年齢78.8±11.3歳)であった。脳血管疾患患者は20名、運動器疾患患者は57名、廃用症候群患者は5名であった。退院時のFIM合計得点は中央値102点に対し、退院直後では中央値101点であり、有意差は認められなかった。また運動項目、認知項目においても退院時と退院直後のFIM得点に有意差は認められなかった。一方、個別の変化では、FIM合計得点が改善した者は34名(41.5%)、維持していた者は19名(23.2%)、低下していた者は29名(35.4%)であった。また、改善もしくは低下した者のうち、66.7%は5点未満の変化であったが、33.3%は5点以上の変化であった。(2)は、退院時から退院直後に45.1%で変化がなく、2点未満の変化にとどまるものが50.0%であった。(4)は、退院時において、Apathyを示す16点以上の者が、改善した者は32.4%、維持していた者は26.3%に対し、低下していた者は51.7%であった。(8)は、入院中の動作スペースが延べ平均155.4±2.9平方メートルに対し、退院後の自宅では28.1±3.7平方メートルであった。(3)(5)(6)は退院時と退院直後の比較において差は認められなかった。(7)は、退院直後のADL変化との関連性は認められなかった。また脳血管疾患患者では退院直後のFIM得点が低下した者が29.2%であったのに対し、大腿骨頚部骨折患者で低下した者は35.8%であった。【考察】 退院時と比較して退院直後では76.9%で改善または低下の変化がみられた。そのうち、33.3%はFIMで5点以上の変化であった。同時期の機能的動作尺度には大きな変化が見られない。精神・心理面は退院直後のFIM得点が低下した者のうち、約半数が退院時にApathyを示していた。環境面では、入院中に比べ、自宅では動作スペースが狭小化していた。以上のことから、身体機能よりも意欲や関心ならびに住環境が大きな要因である可能性が示された。また脳血管疾患患者に比べ、大腿骨頚部骨折患者では低下した者が多くみられたが、本研究では、脳血管疾患患者の比率が少なかったため、脳血管疾患に合併する可能性の高いうつ病等の精神、心理面の影響を考慮し、さらに疾患特性による詳細な検討が必要だと考える。退院による環境の変化は必然的であるため、退院後の住環境を整えるとともに、入院中より精神・心理面の影響も考慮した介入の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 退院後に生活の様子を聞くと、入院中では想像もできないほど活動的になったり、日中は自宅のベッドからほとんど動かない事例を経験する。このような経験的に把握していた退院直後の変化の実態について、本研究でいくつかの課題を具体的にできた。今後は、さらに詳細な影響要因の分析とともに、長期的な経過についても検討していく必要がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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