Seated Side Tapping Test は虚弱高齢者の移動能力、ADL能力、歩行補助具を反映する
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概要
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【目的】 高齢者の運動機能を評価するテストとして,歩行速度やTUGは転倒率,ADL,自立度,さらに生命予後との関連が認められている非常に有用な指標である。しかし,虚弱高齢者を対象とした場合,これらのテストには,転倒の危険があり,また,歩行が困難で測定をできないことも少なくない.そこで,我々は坐位で運動機能を安全に推定できるテストとして,Seated Side Tapping test(SST)を開発した.このテストは坐位で体幹を左右に出来るだけ速く動かす能力を測定するもので,健常高齢者を対象とした場合,歩行速度やTUGと有意な相関関係が認められることを,昨年の本学会で報告した.本研究では,このテストが虚弱高齢者を対象とした場合にも有用であるか,さらに歩行時の補助具やADLとの関係が認められるかについて明らかにすることを目的とした.【方法】 介護老人保健施設に入所または通所し,理学療法を受けている76名を対象とした.対象者の選択条件は,1.60歳以上であること,2.10m歩行が可能であること,3.椅子からの立ち上がりが可能であること,4.肩関節外転90°以上を痛み無く行えること,5.日常生活を送る上で認知機能に問題がないこと,の5条件とした.歩行速度,TUG,SSTの3項目の測定,およびADLの評価を行った.歩行速度は,対象者に通常速度で歩くように説明し,8mの歩行路の中央5mの歩行に要した時間から算出した.TUGは,Podsiadloらの原文に基づき,椅子から立ち上がり,通常速度で3m先のラインまで歩き,方向転換し,椅子に戻り坐位になるまでに要した時間を測定した.SSTは,坐位で両上肢を側方に挙上し,その指先から10cm離した位置にタップライトを設置し,対象者に出来るだけ速くタップライトを交互に10回叩くように指示し,要した時間を測定した.全ての項目について,ストップウォッチを用いて測定した.ADLの評価には Barthel Index を用いた. 統計処理は以下の方法を用いて実施した.まず,SSTと歩行速度およびTUGの関係についてPearsonの相関係数を求めた.また,Barthel Indexのスコアに基づいて,対象者を四分位で分け,SSTについて,一元配置分散分析およびTukeyの多重比較を実施した.また,同様に,歩行時の補助具に基づいて,歩行器,杖,なしの3群に対象者を分け,分散分析,多重比較を行った.【説明と同意】 大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認のもと、全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 対象者の平均年齢は84.6±6.5歳で,歩行速度,TUG,SSTのそれぞれの平均値は,0.73±0.26m/s,19.2±7.9秒,9.6±2.5秒,Barthel Indexの平均値は87.9±8.3点であった.SSTと歩行速度,SSTとTUGには共に有意で中等度の相関が認められた(r=-0.59, p<0.01,r=0.63, p<0.01).Barthel Indexの点数に従って4群(95点以上,90点,85点,80点以下)に分け,群間比較を行った結果,Barthel Indexの点数が良い群ほど,SSTが速く,有意な差が認められた.また,歩行時の補助具に基づいた3群比較においても,補助具なし群が,歩行器群よりもSSTが有意に速かった.【考察】 虚弱高齢者を対象とした場合においても,坐位で体幹を素早く左右に動かす能力を測定するSSTテストは,立位での運動機能と有意な相関関係が認められた.また,このテストは歩行速度やTUGと同様に,ADLの制限や歩行時の補助具との関係も認められた.SSTの平均時間は10秒程度で,準備に必要な時間も数分程度であること,さらに転倒の危険性が低いことを考慮すると,このテストは,虚弱高齢者に対する運動機能テストとして非常に有用であることが示された.【理学療法学研究としての意義】 坐位で実施するテストが,立位でのパフォーマンスを予測するなら,指標としての有用性はもちろんであるが,理学療法士が通常行っている坐位でのトレーニングが立位での移動能力を向上させることを示す根拠になりうる可能性があること.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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