心疾患患者の移動動作能力と膝伸展筋力との関連
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概要
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【目的】 心大血管疾患リハビリテーション(心臓リハ)分野において、運動耐容能と並んで下肢筋力などが主要な身体機能のアウトカム指標として用いられている。近年、増加傾向にある高齢心大血管疾患患や併存疾患を保有する心大血管疾患患者では、従来の身体機能のアウトカム指標の測定自体が困難な症例も少なくない。近年、虚弱高齢者や慢性疾患患者においても簡便に移動動作能力を主とした身体機能標として、Short Physical Performance Battery(SPPB)が汎用されてきた。しかしながら、心疾患患者を対象にSPPBの得点と従来の身体機能のアウトカム指標である下肢筋力との関連性を検討した報告は極めて少ない。そこで本研究では、これらの身体機能や移動動作能力が低下した心疾患患者の新たな身体機能のアウトカム指標としてのSPPBの有用性を検討することを目的とした。【方法】 2009年5月~2011年9月の間に当院にて心大血管疾患のため入院加療を要し、退院時にSPPBならびに下肢筋力測定が可能であった1485例(男性1028例、女性457例、年齢67±13歳、疾患内訳;冠動脈バイパス術後253例、弁膜症術後441例、大血管術後179例、虚血性心疾患398例、心不全140例、先天性心疾患52例、その他22例)を対象とした。SPPBはバランステスト、4m歩行テスト、椅子からの5回立ち座りテストの3項目で構成される身体機能評価である。各項目とも0~4点に分類され、計0‐12点に得点化され、SPPB得点が高い方が、移動動作能力が良好であることを示す。等尺性膝伸展筋力の測定には、ハンドヘルドダイナモメータ(μ-Tas F‐1、アニマ社製)を用いた。椅子座位にて下腿遠位部前面にセンサーパッドを固定し、膝関節90度屈曲位となるようにベルトの長さを調整した。胸部前面で両腕を組ませた姿勢で、バルサルバ効果を避けるように注意しながら約5秒間の最大膝伸展筋力を測定した。左右の脚とも2回ずつ測定し、最大値を下肢筋力として採用し、左右の平均値を体重で除した値(体重比:%)を解析値とした。各SPPB得点に対する等尺性膝伸展筋力のカットオフ値をROC曲線を用いて感度と特異度から算出した。全ての統計学的解析はSPSS 19.0 (IBM社)を用いて、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の実施にあたり、当院倫理委員会の承認を得た。また、本研究への参加に対して、事前に研究の趣旨や内容、さらには調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。【結果】 退院時のSPPB得点は、SPPB12点1005例(67.6%)、SPPB11点218例(14.7%)、SPPB10点95例(6.4%)、SPPB9点71例(4.8%)、SPPB8点49例(3.3%)、SPPB7点26例(1.8%)、SPPB6点21例(1.4%)であり、退院時のSPPB得点の平均値は11±1点であった。一方、退院時の下肢筋力は43.7±14.2%であった。SPPB12点の等尺性膝伸展筋力のカットオフ値は40%(感度0.71、特異度0.72、陽性的中率0.71、陰性的中率0.71、AUC 0.77、p<0.01)、SPPB10点の等尺性膝伸展筋力のカットオフ値は35%(感度0.76、特異度0.73、陽性的中率0.44、陰性的中率0.66、AUC 0.80、p<0.01)、SPPB6点の等尺性膝伸展筋力のカットオフ値は30%(感度0.84、特異度0.67、陽性的中率0.48、陰性的中率0.67、AUC 0.83、p<0.01)であった。【考察】 等尺性膝伸展筋力は、下肢筋力の指標のみならず、治療効果の判定や予後予測因子として汎用されている。しかし、等尺性下肢筋力には高額な測定機器が必要であり、他疾患を併存し身体機能が低下した症例では測定自体が困難な症例も少なくないのが。本研究では、虚弱高齢者や慢性疾患患者などの移動動作能力が低下した症例にも汎用されているSPPBを移動動作能力が低下した心疾患患者に応用するため、等尺性膝伸展筋力との関連性を検討した。本研究の結果より、SPPB得点が満点か否かを判断する下肢筋力のカットオフ値が体重比40%、同様にSPPB得点10点が体重比35%、SPPB得点6点が体重比30%とそれぞれ感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率からも有用な下肢筋力のカットオフ値を抽出することができた。等尺性下肢筋力40%は立ち上がりや段差昇降、また室内歩行の可否を決定するカットオフ値であることが報告されており、これらSPPB得点が12点満点とならない移動動作能力の低下した症例の身体機能のアウトカム指標としての有用性が示された。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より、移動動作能力が低下した心大血管疾患患者においてSPPB得点と等尺性膝伸展筋力との関連が示された。また、等尺性膝伸展筋力の体重比40%、35%ならびに30%をカットオフ値とする各SPPB得点が抽出できたことで、簡便なSPPBの測定により、先行研究で提示されている下肢筋力と移動動作能力や心イベントとの関連性の結果を臨床応用できることは極めて有用と考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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