待機的心大血管疾患術後患者におけるカテコラミン投与状況とリハビリテーション進行との関連
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概要
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【はじめに、目的】 心大血管疾患術後リハビリテーション(術後リハ)では、術後早期離床の概念定着により、待機的手術患者の多くは術後翌日から積極的に離床を進めることが一般化してきた。従来よりカテコラミン製剤の投与状況は血行動態を反映することから、術後リハ内容の選択や進行を決定する重要な因子と考えられている。しかし、術後リハ開始時のカテコラミン製剤の投与状況と術後リハ進行との関連についての報告は極めて少ない。そこで、本研究は術後リハ開始時のカテコラミン製剤の投与状況とリハ進行との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】 2011年1月から3月に当院にて待機的心大血管手術を施行し、術前に連続100m歩行が可能な日常生活活動が自立していた154例(男性101例、女性53例、術式内訳:冠動脈バイパス術39例、弁置換・形成術40例、大血管疾患手術20例、複合手術46例、その他9例)を対象とした。これらの症例の術後リハ開始時点のSequential Organ Failure Assessment (SOFA)のサブスケールであるcardiovascular score(CS)を算出した。CSは、血圧ならびにカテコラミン製剤の投与状況により0点から4点に分類され、0点;平均血圧≧70mmHg、1点;平均血圧<70mmHg、2点;塩酸ドパミン(DOA)≦5γあるいは塩酸ドブタミンの投与;投与量問わず、3点;DOA>5γあるいはエピネフリン(AD)≦0.1γあるいはノルエピネフリン(NAD)≦0.1γ、4点;DOA>15γあるいはAD>0.1γあるいはNAD>0.1γと点数が高い症例では、血行動態が不安定で高用量のカテコラミン製剤が投与されていることを示す。本研究の対象では、術後リハ開始時点でCS 4点の症例は認めず、0点(A群);69例、1点(B群);46例、2点(C群);32例、3点(D群);7例の4群に分類された。本研究は、この4群において患者背景因子ならびに術後リハ進行を後方視的に調査し比較検討した。尚、術後リハ進行状況として、端坐位、歩行開始病日、100m歩行自立病日および日本循環器学会ガイドラインによる術後リハ進行の目安である100m歩行を術後8日以内に完遂したか否かを調査した。統計学的手法はSPSS19.0を用いて、一元配置分散分析およびカイ2乗検定を行った。すべての統計学的解析において有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施にあたり当院倫理員会の承認を得た。また、本研究の参加に対して、事前に研究の趣旨、内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。【結果】 術後リハ開始時点のCSにより分類すると、A群45%、B群30%、C群21%、D群4%であった。各群間において年齢(p<0.05)、左室駆出率(p<0.01)、糖尿病(p<0.05)、陳旧性心筋梗塞(p<0.05)、維持血液透析(p<0.05)、術前心不全入院(p<0.05)の有無に統計学的有意差を認めた。術後リハ進行に関しては、端坐位開始病日、歩行開始病日には有意差はなかったが、100m歩行自立病日はA、B群に比べて、C、D群がそれぞれ有意に遅延した。(A群2.9±1.4日 vs B群2.7±1.2日 vs C群4.3±2.2日 vs D群5.1±2.1日;p<0.05)。一方、術後8日以内に100m歩行を完遂した割合ならびに術後在院日数には4群間で有意差を認めなかった。また、術後リハに伴う血行動態の破綻により急性期治療を要した症例は各群ともに認めなかった。【考察】 術後リハ開始時にカテコラミン製剤が投与されていたC、D群は、他疾患を併存し左室収縮能が低下した重症心疾患患者が多いのが特徴であり、術後の血行動態の安定化のためカテコラミン製剤の投与が遷延した可能性が示唆された。一方、CS 4点となるような低心拍出の治療を要する症例を除いて、厳密な術後リハ進行の基準下で実施する上では、低〜中等度のカテコラミン製剤の投与の有無単独では、術後リハ開始時の中止基準とはならない可能性が示された。一方、術後8日以内の100m歩行完遂率は同等であるのに対して、100m歩行自立病日が遅延するなど血行動態の変動に応じて術後リハ進行を微調整せざるを得ない症例が多い可能性が高い。そのため、カテコラミン製剤投与下に術後リハを進行する際には、カテコラミン製剤投与の目的や治療への反応性など包括的に全身状態を把握し、術後リハ進行を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 昨今、欧米並に術後在院日数が短縮されている中で術後早期から安全に術後リハを進行させることが理学療法士の課題となっている。そのため、低〜中等度カテコラミン製剤の投与自体が術後リハ進行の中止基準とならない可能性が示されたことは、極めて臨床的な意義がある一方で、今後はカテコラミン製剤投与下の術後リハ進行を安全に施行するための術後リハ実施基準の検討が必要と考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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